株主・投資家の皆様へ

技術革新による
新たなソリューションを推し進め、
「サステナブル経営」を追求する

「構造改革」や「新たな事業スタイルの確立」の総仕上げ、「次の長期ビジョンへとつなげる基盤づくり」が、着実に進展

前中期経営計画「OYO Advance 2023」は、長期経営ビジョン「OYO 2020」に基づく「構造改革」と「新たな事業スタイルの確立」の総仕上げを行い、「次の長期ビジョンへとつなげる基盤づくり」を目指した3か年でした。

第一に、「構造改革」や「新たな事業スタイルの確立」の総仕上げに向けて、「DXを核としたイノベーション戦略」の推進に注力し、イノベーション投資(DX+研究開発)に3か年累計で55億円を計画し、結果として約72億円を投資しました。これにより、たとえば、当社グループがグローバル市場を見据えて取り組んでいる「地盤3次元化技術のデファクトスタンダード化」に向けた技術開発が着実に進展してきました。また、今後の経営環境にマッチした事業ポートフォリオ構築に向けて「M&A投資枠」を設け (3か年累計で当初70億円から120億円へ増額)、2022年10月のシンガポールのGeosmart International社、2023年1月のOX社 (AI事業) の買収・子会社化などを実現させてきました。

第二に、「次の長期ビジョンへとつなげる基盤づくり」に向けて、「サステナブル経営の積極推進」を基本方針に掲げ、新たな価値創造プロセスへのチャレンジを本格的に推し進めました。当社グループが展開しているすべての事業は、持続可能な社会の実現に直結しており、各市場におけるソリューションの提供が社会課題の解決につながっております。前中期経営計画の3か年で、この点をグループ全社員の共通認識として、さらには企業文化として根づかせる、いわば意識改革を推し進めると同時に、マテリアリティの特定やサステナビリティ推進体制の構築など、サステナブル経営に必要不可欠な組織・体制面の整備にも取り組んできました。

以上のように、前中期経営計画は、主に2つの目的を達成するために推進され、次期以降につながる成果を着実に上げることができたと考えております。

業績面では、売上高は目標をクリアしたものの、営業利益率に課題が残る

一方、業績 (連結ベース) については、利益面で課題が浮き彫りになったものと認識しております。

まず、売上高は、3期連続の増収により、最終年度 (2023年度) 目標620億円に対し656億円を上げることができました。増収および目標達成の主な要因は、4つの事業セグメントごとに設定していた「重点サービス」が着実に市場に受け入れられたものと自負しております。なかでも「洋上風力発電支援サービス」における成果の拡大が最も顕著であり、前中計スタート前 (2020年度) の実績24億円に対し、2023年度には70億円超まで拡大しました。また、「ハザードマッピングセンサーソリューション」や「災害廃棄物処理計画関連サービス」も10億円超のビジネスへと成長しました。唯一「地中可視化サービス」は目標未達となったものの、2021年度よりサービスを本格化させ3年間で4億円を超える規模まで拡大しております。

次に、営業利益率は、最終年度 (2023年度) 目標8%に対し4.3%という低水準で終わりました。長期トレンドで見ると、2017年度を底に上昇傾向に転じたものの、直近の2年間は下降トレンドシフトしています。

さらに、資本効率に関する財務目標として「ROE 5%」を掲げており、最終年度 (2023年度) は5.6%と目標を上回ることができました。これは、最終利益 (親会社株主に帰属する当期純利益) が前年度比121.5%増と大幅な増益となったためですが、その主な要因としては、繰延税金資産の計上等に関わる「法人税等調整額 △10億円強」を計上したことが大きく、この効果を除外するとROEは4%強の水準に留まっており、実態としては目標未達という状況にあると考えております。

マテリアリティ追求の視点から、2030年の「ありたい姿」を策定

新たな長期ビジョン「OYOサステナビリティビジョン2030」は、次の時代を担う幹部層とひざを突き合わせながら、1年以上の時間をじっくりと掛けて策定したものです。

当社グループが目指す経営の方向性は、究極的には「経営理念」と「経営ビジョン」に向かっており、その2つの実現を目指すうえでの重要課題として「マテリアリティ」を設定しています。こうした当社グループの理念体系のもとに策定された長期ビジョン「OYOサステナビリティビジョン2030」では、このマテリアリティに対してどう取り組んでいくかをベースに、「ありたい姿」を導き出しています。マテリアリティの中でも特に「事業活動におけるマテリアリティ」が当社グループの事業の今後の方向性を示唆する最重要課題であるとの認識から、これらを重点的に盛り込んでおります。すなわち、当社グループは今後、SDGsの目標年である2030年に向けて、当社グループならではのソリューション提供型の技術・サービスによって「人と地球の未来にベストアンサーを。」提供していき、こうした事業活動を通じて社会・環境価値と事業収益を向上させ、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

具体的な企業イメージとして、「1.100年企業に向けた持続的成長」、「2.社会課題の解決に貢献する企業」、「3.「働きやすさ」と「働きがい」を実現する企業」の3つの“ありたい姿”を示し、これら3つの実現度を推し量るKPIとして「業績目標」と「サステナビリティ目標」を計7つ設定しました。本長期ビジョンでは、理念体系 (経営理念・経営ビジョン・マテリアリティ) の追求におけるマイルストーンとして、この7つのKPI達成を目指していきます。

当社グループの内部課題と外部課題を基礎に、3つの基本方針を策定

長期ビジョン「OYOサステナビリティビジョン2030」を実現へと導くために、第一期のアクションプランとして、「OYO中期経営計画2026」を進めてまいります。そこで私たちは、本長期ビジョンが示す3つの“ありたい姿”を追求していくうえで、まず、当社グループが取り組んでいかなければならない課題の整理を行いました。

内部課題としては、前長期経営ビジョンと前中期経営計画の計14年間を振り返って、今後、「100年企業に向けた持続的成長」を果たしていくためには、「事業収益性の向上」と「資産/資本効率性の向上」という2つの重要課題に対応していかなければならないと認識しています。また、「社会課題の解決に貢献する企業」、「「働きやすさ」と「働きがい」を実現する企業」としての存在価値を高めていくためには、「サステナビリティを軸とした経営基盤の強化」が引き続き重要な継続課題となります。

そして、これら3つの内部課題に大きな影響を複合的に及ぼしているのが外部課題です。持続可能な社会への転換が地球規模で進むなか、自然災害の激甚化と再生可能エネルギーの需要拡大が表裏一体で進展し、社会インフラの老朽化も相まって防災・減災を視点としたナショナルレジリエンスが世界各国で急務となっています。また、労働力減少のなか、多様性や働き方改革が重要度を増し、人材の価値を最大限に引き出し活かしていく「人的資本経営」が注目を集めています。

これら内部課題と外部課題に対する認識のもと、「OYO中期経営計画2026」では、「1.セグメント戦略の推進」、「2.バランスシートの最適化」、「3.サステナブル経営の強化」という3つの基本方針を策定しました。

重要課題「事業収益性の向上」に向け、「セグメント戦略」を推進

1つ目の基本方針「セグメント戦略の推進」は、重要課題である「事業収益性の向上」に対応していくためのものです。

当社グループは2018年度に、市場が求めるソリューションを積極的に提案していくべく、事業分野別にセグメントを区分する再編を行い、6年間、4つのセグメントで組織活動・事業活動を展開してきました。その結果、“受身”の営業から“提案型”の営業へと転換が図られ、公共セクターと民間セクターの売上高構成比も民間セクターの割合が着実に高まる (国内売上の56%が民間セクター向け売上) など、「新たな事業スタイルの確立」が着実に進みました。

しかし、同時に、解決するべき新たな課題が出てきました。

第一の課題は、「国際ビジネスの拡大」です。これまで国際ビジネスは各セグメントの中に包含されていました。当社グループの技術力に対する海外ニーズの高まり、それを背景とした海外M&Aの積極化などにより、海外売上高比率は次第に向上し、2023年度には全売上高の約25%の水準まで拡大してきました。元々、事業環境、事業リスク、事業活動などすべての面で国内ビジネスと国際ビジネスには大きな違いがあり、国際ビジネスがここまで大きくなってきますと、国内ビジネスと一括りにしたセグメントの中では的確な管理・運営を行うことは極めて難しくなります。そこで、国内事業と組織・セグメントを分離し、新たに「国際セグメント」を再編することとしました。

第二の課題は、「顧客窓口の実態とセグメント区分の不整合」です。従来の4つのセグメントは、当社グループとして開拓していくべき事業分野で区分し、この区分に基づいて組織も編成されていました。しかし、当社グループの事業は、公共セクター・民間セクターともに建設関連事業をベースに動いている市場ですので、実態としては、当社グループが4つの組織で1つの顧客窓口に個別に営業アプローチをかけていたケースも少なくありませんでした。これは、組織としての生産性・効率性の面から大きなムダを生んでいたことになります。今回のセグメント再編は、この課題に対応したものとなっています。

これら2つの大きな課題に対応して、今回のセグメント再編では、市場特性に即した組織・セグメントとして、新たに「防災・インフラ」、「環境・エネルギー」、「国際」の3つに再編しました。セグメントごとに、収益の状況や市場特性、市場環境に基づいて的確な戦略を立案・実行していきます。これによって、事業の効率化と収益性の向上を図ると同時に、改めてグループシナジー最大化の視点から、製品・サービスの見直しと企画開発・販売力の強化を図ってまいります。

重要課題「資本効率性の向上」を果たすべく、「バランスシートの最適化」を図る

2つ目の基本方針「バランスシートの最適化」については、「資本効率性の向上」という重要課題に対応していくための考え方です。前中期経営計画においても、成長投資と株主還元を両方ともに重視する財務・資本戦略をとってきましたが、新中期経営計画でも引き続き推し進めていきます。成長投資 (イノベーション開発投資+人的資本投資+設備投資) は、中期経営計画3か年累計で前中計以上の規模を、株主還元についても方針を「連結配当性向50%以上かつDOE2%以上」と改め、前中計を上回る配当および自己株式取得を計画しております。

さらに、引き続き積極的なM&Aの実行を目指していくなかで、成長投資・株主還元・M&A投資枠をすべて手元資金で賄う従来の方針を改め、今後のM&A投資においては有利子負債を活用する方針に変更しました。これにより、手元資金を成長投資と株主還元に重点的に振り向けることができ、かつ、よりレバレッジの利いたM&A投資を行うことができますので、資本効率性の向上ひいては企業価値の向上につながるものと考えております。

今後の核となる経営基盤として、「サステナブル経営」の強化

3つ目の基本方針「サステナブル経営の強化」については、「サステナビリティを軸とした経営基盤の強化」という継続課題に対応しています。「人材戦略・働き方改革」、「気候変動リスク対応」、「ガバナンス・コンプライアンス」の3つの側面で取り組んでいきます。

「人材戦略・働き方改革」については、「人は資本」という人的資本経営の視点から、セグメント戦略に沿った人材ポートフォリオの拡充と、「働きやすさ」と「働きがい」の実現を目指していきます。これからの3年間でまずは「人的資本投資10億円」を予算として活動を強化し、人材の獲得・育成に努めていきます。社会が多様な価値を求める時代にあって、多様な人材の獲得・育成は必要不可欠です。キャリア採用、女性活躍推進、グローバル人材活用など、多様性がこれからの組織を強くしていく要素の1つだと考えます。

「気候変動リスク対応」については、組織活動と事業活動を通じて、脱炭素社会の形成に貢献していきます。組織活動を通じたGHGの直接的削減の取り組みは、再生可能エネルギーの利用拡大や省エネ対策の推進、EV車への置き換えなど、グループ全体で推進し、2026年目標で3,000t-CO2以上の削減を目指していきます。また、事業活動による脱炭素の取り組み (間接的削減) は、低炭素化技術の開発・展開や脱炭素事業への積極的な取り組みを通じて、より多くのGHG排出量削減に貢献していきたいと考えています。

「ガバナンス・コンプライアンス」については、今後の持続的な成長にとって欠かすことのできない経営基盤と言えます。なかでも、今後の事業のグローバルな広がりを見据えて「グループガバナンス」が重要度を高め、また、DXを推進し知的情報サービス産業として進化を遂げていくうえで「情報セキュリティ」の強化も欠かせません。引き続き、リスクと機会を的確に分析し、最適なガバナンス体制の構築を進めてまいります。

私たち応用地質グループは、地球規模のあらゆる場において、防災、インフラ、自然環境、資源、エネルギーなどさまざまなテーマで、地域の生活や経済活動を支えるお手伝いをしています。人々の目に見えない場所での活動が多いからこそ、これからも私たちの活動の一端をステークホルダーの皆さまにお伝えし、ご理解とご支援を賜りたいと思っております。当社グループは、持続可能な社会の実現に向けて、さまざまな課題に取り組んでまいります。私たちは、ステークホルダーの皆さまからのご期待に応えるべく、今後も挑戦し続けます。

2024年7月

代表取締役社長

天野 洋文