SAR衛星画像を活用した地盤変動解析

「合成開口レーダー (SAR) 衛星」による衛星画像を活用して、わずかな地盤の変動状況を高精度に解析。オンデマンド型とオーダーメイド型の2種類の解析サービスを提供し、広域での地盤の沈下・隆起のモニタリングや原因の推定、対策の提案等によりお客様の事業をサポートします。

概要

数ある地球観測衛星の中でも、「合成開口レーダー (SAR:Synthetic Aperture Radar) 衛星」は、マイクロ波を地表に照射し、その反射波や後方散乱を捉える衛星であり、天候に左右されずに地球を観測する特徴を有します。

当社では、2002年よりSARを活用し、さまざまな分野でお客様の課題解決に貢献してきました。その対象は、斜面・道路・鉄道・河川のインフラ整備や維持管理、さらには防災の分野まで、多岐に渡ります。

特長

地球観測衛星は搭載センサにより観測対象が変わる

地球観測衛星は、地球で起きる様々な現象を、日々宇宙から観測しています。衛星に搭載されたセンサーには、「光学センサー」、「SAR」、「熱赤外センサー」など、様々な種類があり、観測の目的 (例えば、地表面温度の観測、温室効果ガスの観測、降雨・降雪の観測、船舶や航空機の観測など) に応じて、使い分けて運用されています。

合成開口レーダー (SAR) 衛星とは

当社が活用している「合成開口レーダー (SAR) 衛星」は、マイクロ波を照射・受信するSARを搭載した衛星で、天候に左右されずに地球を観測できるものです。

地球観測衛星の中には、通常のカメラを使った航空写真のように、太陽光の反射を用いて地表面を撮影する「光学衛星」というものがあります。光学衛星で撮影した画像は、フルカラーで地表面の様子を見られるため、直感的に捉えやすいというメリットがある一方、雲に覆われた部分や、暗いところでは撮影できないというデメリットもあります。これに対し、SAR衛星は、マイクロ波を自ら照射し、その反射波や後方散乱を受信して地表面を観察する仕組みです。太陽光などの状態に関わらず、いつでも同じ条件で観測ができます。

光学衛星 合成開口レーダー (SAR) 衛星
解析方法
光学センサーを搭載
対象物に反射した太陽光を観測して、地上の様子を撮影する
合成開口レーダー (SAR) を搭載
マイクロ波を地表に照射し、反射波・後方散乱を捉える
撮影された画像
富士山
富士山
強み フルカラーで撮影できるため、対象物を直感的に判別しやすい 衛星自らが電波を発するため、太陽光などの状態関わらず、いつでも同じ条件で観測できる
弱み 光がないと観測できないため、夜間の光は街灯などに限定され、日中でも、雲に覆われた対象物は観測できない 画像データはモノクロであるため、人間が直感的に判読することは難しい
画像データから判別できるもの
  • 対象物の色、形、大きさ
  • 植生状況 (植物の種類、活性度 など)
  • 土地の利用状況 (森林、畑、街 など)
  • 対象物の構造、材質
  • 火山や地震活動による地形の変化
  • 浸水域
  • 土壌水分量

例えば、SAR衛星が1回目にある対象物を観測します。そして、対象物が沈下した後に2回目の観測を行います。すると、2回目のマイクロ波は1回目よりも遅れて観測されます。また、沈下量は、位相差から推測可能です。

SAR画像とマイクロ波

SAR衛星の中にも、発信するマイクロ波の波長の長さや、画像の分解能などにより、様々な種類の衛星があります。

衛星名 運用期間 回帰日数 バンド数 (波長) 主な観測幅 主な分解能 費用
ALOS-2 2014年~現在 14日 Lバンド (約24cm) 50km 3×3m 8万円/シーン
ALOS-4 2024年末頃~ 14日 Lバンド (約24cm) 200km 3×3m 2024年7月打ち上げ
年末頃に運用開始
RADARSAT-2 2007年~現在 24日 Cバンド (約6cm) 100km 25×28m
Sentinel-1 2014年~現在 12日 Cバンド (約6cm) 250km 5×20m 無償
TerraSAR-X 2007年~現在 11日 Xバンド (約3cm) 30km 3×3m
COSMO-SkyMed 2007年~現在 8日 Xバンド (約3cm) 40km 3×3m
  • 観測モードが多いため、実際には年に3~4回の撮影頻度
  • 波長 (バンド数) が短いほど変動検出精度が高い
  • 分解能が高いほど、ピンポイントの変位の検出が可能
  • 波長が長いほど植生がある箇所での計測が可能 (右図)

当社では主に、ALOS-2と、Sentinel-1という衛星を使用しています。また、ALOS-4は2024年の7月に打ち上げられたばかりで、今後の活用が期待されています。

SAR衛星画像を活用した応用地質のサービス

当社では、SAR衛星を用いて、以下のようなサービスを提供しています。

SAR衛星画像による変動モニタリング・解析の例

  • 広域地すべり変動
    • 多年にわたる地すべり挙動のモニタリング
    • 変位結果や予測に基づく道路管理方針の提案
    • 地すべり対策優先箇所の決定
  • 道路、鉄道、堤防等の広域変状 (沈下・隆起等) 観測
  • 宅地 (大規模盛土造成地等) の沈下観測
  • 地下水変動に伴う広域地盤沈下のモニタリング
  • 鉄塔、建物等の構造物の沈下・傾動の観測、原因究明
  • トンネル施工地周辺の地盤変動の監視、原因究明

「オンデマンド型」と「オーダーメイド型」

当社の衛星画像解析サービスは、既に解析済みのデータを迅速かつ安価に出力する「オンデマンド型 (ランドモニタリング)」と、対象箇所に合わせて衛星の種類や撮影時期を選択できる「オーダーメイド型 (干渉SAR解析サービス)」の2つに分けられます。

サービス名 概要 特長 提供範囲 解析方法
オンデマンド型
ランドモニタリング
Sentinel-1の画像解析を用いた地盤変動量の出力サービス 日本全国の変動量を解析済みのため、迅速にかつ安価に地盤変動を確認可能 全国
(沖縄を除く)
SqueeSAR®
(PS+DSInSAR)
オーダーメード型
干渉SAR解析
各種の衛星画像を用いた地盤変動量の解析サービス 対象箇所の特性に合わせた衛星や撮影時期・期間を選択可能 全国 DInSAR
SBAS
SqueeSAR®
SqueeSAR®:業務提携先のTRE-Altamira社が開発した最新干渉SAR技術
ランドモニタリングサービスの提供期間
近畿地方 2016年~2021年
中国地方 2016年~2021年 (南行軌道のみ2022年)
その他 (沖縄を除く) 2016年~2018年6月

「オーダーメイド型」のラインナップ

オーダーメイド型には3つのレベルのサービスがあります。レベルが上がるほど精度が上がりますが、より多くの衛星画像を必要とし、また解析方法も複雑になります。

レベル レベル1【DInSAR】 レベル2【SBAS】 レベル3【SqueeSAR】
目的 どの範囲が?
(変動域の把握)
いつ?
(変動域と時系列変位傾向の把握)
どれだけ?
(高精度の時系列変位の把握)
精度 低 (cm単位) 高 (mm単位)
費用
成果
イメージ
変動域の範囲だけを簡易的に把握
変動域と時系列での変位傾向の把握
レベル1よりも多くの画像を使用し、変位検出精度を高めたもの
3つの手法の中で最も実変位に近い解析方法
mm単位の高精度での時系列変位の把握

応用地質の強み

当社の強みは、これまで培ってきた地質や地盤に関する豊富な知見とデータを活用し、解析や検討を行える点です。

SARを用いたサービスの提供において、そのパターンは解析方法と衛星画像の種類に限られます。しかし、SARを用いて地盤変動の原因を的確に推定し、最適な解決策を見出すためには、地質や地盤に関する深い理解が不可欠です。当社は、地質・地盤調査に関わる技術者数、保有データ数、売上額において国内でNo.1の規模を誇ります。

また、衛星画像を用いたサービスは2002年から提供を開始し、実績を築いてきました。これらの経験と知見を基に、お客様に対して的確なコンサルティングを提供いたします。

実施例

レベル1の実績例:地すべりの面的な変動の把握 (DInSAR)

引用:平田 ほか (2019)
  • 昇交軌道と降交軌道の2軌道のSAR画像を用いたInSARの実施により、地すべり対策効果範囲を確認
  • 孔内傾斜計、GPS観測では未着目だった斜面変動を新たに検出
  • GNSSとDInSAR解析結果の整合を確認し、GNSS観測点を削減することで、地すべり監視のコストダウンを実現

レベル2・3の実施例:2種類のInSAR時系列解析を実施し、地すべりの解析手法の適用性を検討

引用:木下 ほか (2024)
  • 地表変位データの豊富な大規模地すべりにて、SAR解析の適用性を確認
  • 解析結果とGNSS観測結果を比較
  • ALOS-2の画像を用いた解析レベル2でGNSSとの相関係数0.85
  • Sentinel-1の画像を用いた解析レベル3でGNSSとの相関係数0.92
  • リフレクタ設置による変動時系列の標準偏差の低下を確認

レベル2の実施例:地盤沈下監視のための干渉SAR時系列解析

引用:平田 ほか (2024)
  • 地下水利用による地盤沈下監視を目的として水準測量が実施されている地域を対象に干渉SAR時系列解析を実施
  • 水準測量との2乗平均平方根誤差が『地盤沈下観測等における衛星活用マニュアル (環境省、平成29年)』に示された精度指標を満足
  • 軟弱地盤、造成地の地盤沈下と、ダム湖周辺の地すべりを検出
  • 地理院の干渉SAR時系列解析 (~2022年) と比較

道路斜面災害リスクのスクリーニング

引用:平田 ほか (2024)
  • 道路斜面災害リスクの抽出における干渉SARの可能性を探る基礎研究として、地震発生前の能登半島における干渉SARの結果と、実際の令和6年能登半島地震における斜面崩壊・土砂堆積分布と亀裂分布 (国土地理院、2024) を重ね合わせて確認
  • 解析期間は2020年12月以降の能登半島群発地震の期間を避け、2019年11月と2020年11月にALOS-2/PALSAR-2により撮影されたSAR画像を解析に選定
  • 干渉解析結果で変動が確認された箇所にて、画像A~Cに示した3つの災害リスクを抽出

実績

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