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コラム

都市型斜面災害とは?地震や豪雨による土砂崩れ・擁壁 (ようへき) 倒壊の原因と命を守る対策方法〈後編〉

2026.06.12

線状降水帯による猛烈な雨が、都市の地盤を破壊する?激甚化する気象データから読み解く土砂災害の最新トレンドを解説。SAR衛星による広域監視や傾斜センサーを用いた崩壊予兆検知など、命を守る最先端テクノロジーによる「事前防災」の核心に迫ります。

「前兆」を知り、テクノロジーで「見えない危機」を可視化する

前編では、戦後の開発によって生まれた「長年の蓄積により顕在化したリスク」とも言える都市型斜面災害の構造的要因と、実際の被害事例から学ぶべき教訓について解説しました。

後編では、その脅威をさらに高める「線状降水帯」の特徴と、目に見えない地盤の動きをミリ単位で捉える最新のデジタル・テクノロジーの可能性を掘り下げます。

私たちが次世代に安全な街を引き継ぐために、今、個人とコミュニティができる「事前防災」の核心に迫ります。引き続き、防災・インフラの専門家、矢部満氏にお話を伺います。

線状降水帯が変える土砂災害の常識:データから見る都市のリスク

気象庁は線状降水帯を定義した2023年以降、線状降水帯発生の統計データを公開しています。その統計データを踏まえて、2023年~2025年の線状降水帯の発生状況を整理しました。【図1】は、継続時間30分間以上の線状降水帯が発生・継続した予報区に人口20万以上の行政市 (中核都市) がある場合、その都道府県の都市域に線状降水帯が発生したとカウントし、都道府県別に整理したものです。

【図1】を見ると、福岡県、熊本県を中心に九州地方の都市域で発生していることがわかります。また、太平洋沿岸のほぼ全域に近い都道府県の都市域でも発生していることがわかります。

最近は気候変動の影響で、梅雨前線の位置や台風進路が過去のパターンに当てはまらないケースが増えてきています。このようなことから、線状降水帯は、日本全国の都市域どこでも今後発生しうる可能性が高いといえます。そして、短い時間の線状降水帯の発生であっても、1時間に50~100mmといった猛烈な雨が降る可能性があり、その前の雨で地盤が緩んでいれば、土砂災害が発生する恐れがあるといえます。

【図1】線状降水帯の発生回数
都道府県別の人口20万以上の行政市に発生した継続時間30分間以上の線状降水帯発生回数
(2023~2025年の延べ回数、気象庁公開情報を踏まえ独自に分析)

戦前から存在した松山城の谷埋め盛土は、過去から何度も大雨の影響を受けて斜面が不安定化した、レアなケースかも知れません。また、東京都杉並区の擁壁も数多ある擁壁のうち、たまたま発生した倒壊事例なのかも知れません。

しかし、線状降水帯により大雨の頻度が増えれば、排水処理しきれない雨水が都市域の古い擁壁や谷埋め盛土の不安定化をより助長するといえます。したがって、松山城や東京都杉並区の災害事例から学ぶべきことは多いといえます。

都市に住む私たちが命を守るためにやるべきことは?

先ほど説明した3つの留意点を理解し、そしてリスク回避の具体的な行動を取ることが重要です。

  1. 土砂災害の契機になる可能性がある斜面の存在
  2. 擁壁や谷埋め盛土がある付近の構造物の状態
  3. 異常箇所および周辺の土地所有・利用状況

例えば、【1】【2】を踏まえて、危険箇所を予め特定しておき、大雨の際やその直後など、土砂災害発生の可能性が高い時には、その箇所に近づかない、または離れることで被災回避につながります。【3】は、土地所有・利用状況の確認に伴い、対策の責任や費用などが関係するため慎重な対応が必要です。このような話はハードルが高いと感じられがちです。

ただし、災害後の影響を考えると、災害発生前からリスク低減に向けた行動をすることが重要です。個人で抱え込まず、行政と連携し地域で解決していく課題といえます。

ここで、都市型斜面災害から身を守るための2つの技術について紹介します。

ポイントまとめ

  • 線状降水帯の常態化と全国的なリスク:2023年から2025年の統計では、九州地方や太平洋沿岸の都市域を中心に線状降水帯が頻発しており、今後は日本全国どこでも発生する可能性がある。
  • 排水能力を超える猛烈な雨:短時間でも時間50~100mmの猛烈な雨が降ることで、都市整備の基準 (時間50mm) を超えた雨水が地盤を緩ませ、古い擁壁や谷埋め盛土の崩壊リスクを助長する。
  • 命を守るための「避難と回避」:危険箇所をあらかじめ特定しておき、大雨の際や直後にはその場所に近づかない、あるいは速やかに離れるという具体的な行動が命を救う。
  • 管理責任への意識と行政連携:異常箇所を放置すると、状況によっては管理責任が問題となる可能性があります。ただしセンシティブな課題であるため、個人で抱え込まず行政と連携し地域全体で解決を目指す必要がある。

【技術編】崩壊を予知するデジタル・テクノロジー

注目すべき、斜面の変動をミリ単位で捉える2つの先端技術を紹介します。

人工衛星からの"電波の目"で微小な地盤変位を把握する-SAR衛星による地盤変動解析-

一つ目は、地球観測衛星のうち、合成開口レーダー (SAR) 衛星の技術を使い、地球上の微小な地盤変位を把握する技術です。SAR衛星は、日本の宇宙航空研究開発機構 (JAXA) など、世界各国の宇宙技術開発を行ういくつかの機関が運用しています。

この衛星が地球に向かって照射するマイクロ波は、地球上の雲などの天候状態に左右されず、地球の地表面の状態 (地形) を捉えることができます。違う時期に取得したデータの比較解析 (差分解析) によって、地形の変化をミリ~センチ単位で把握することが可能です。

この技術を地すべりの監視に使った当社の事例を紹介します。

【図2】はある山間部の地すべり地帯のSAR衛星データを使った地すべり変動の解析結果の平面図です。地図上で複数の地すべりがブロック (輪) 状に分布していることがわかります。

地すべり対策には、どの地すべりブロックが最も動きが活発かを把握することが、対策の優先順位を決める上で重要です。差分解析の結果、地すべりブロックがどの方向 (東西) にどれだけ移動 (mm) していることが面的に確認できました。

【図2】地すべり変動分布図 (SAR衛星による時系列解析)
SAR衛星データによる差分 (時系列) 解析による地すべりの変動分布平面図
引用:木下ほか (2024)
出典:「怒田・八畝地すべりにおける衛星SAR解析とGNSSとの突合結果の一考察」,2024,木下英樹,蚊爪康典,平田諒次,岡本尚子,窪田安打,山本逸 輝,古宮一典,福井慧,野波英輔 ,田所真 ,第63回(2024年度) 日本地すべり学会研究発表会 宮城大会講演集

この技術を、都市部の谷埋め盛土や擁壁 (比較的規模が大きい) といった斜面の変動状況の確認に応用することが可能です。

人工衛星運用開始 (JAXAのだいち2号で2014年~) 以降の複数時期のデータによる差分解析を行うことで、どの谷埋め盛土や擁壁が近年変動しているか把握することができます。ある一定の範囲 (50km~) を面的に調べられるので、効率的な調査手法といえます。

多数の大規模盛土造成地を抱える自治体が都市の防災計画の観点でこの技術を利用し、解析結果をマップ化することで事前防災情報として保有することが望まれます。

センサーデータから斜面の崩落予兆を検知する-傾斜センサーによる斜面崩壊監視-

もう一つは、傾斜センサーを使った斜面崩壊の予兆を検知する技術です。崩壊が進むと地盤が傾きますが、それを傾斜センサーで捉えるものです。

傾斜センサーは産業用に様々な製品が開発されていますが、それを斜面の崩壊検知に適用できるかが重要です。斜面崩壊の監視専用のセンサーには、屋外での厳しい環境下で不具合なく、24時間365日絶えず地盤変動を監視し続ける耐久性とともに、崩壊前の早い段階でその予兆を検知できる精度が求められます。

当社は、創業以来の地質調査専用の計測機器開発のノウハウを踏まえ、傾斜センサー (表層傾斜計、クリノポール) を製品化しました。独立行政法人防災科学技術研究所の協力のもと、傾斜センサーを設置した実物大盛土による降雨実験で斜面崩壊を発生させて、その適用性を検証しています。

すなわち、線状降水帯による豪雨と同じクラスの時間50mmの雨を降雨シミュレーターで再現、盛土斜面を崩壊させました。

この実験により、降雨開始後1時間程度で傾斜センサーが斜面変動を検知し、4時間半後の斜面崩壊が発生するまでの間、斜面の挙動を詳細に監視することが確認できました。【図3】

【図3】傾斜センサーによる降雨実験中の観測データ

例えば、亀裂などが拡大傾向にあることが判明した擁壁や谷埋め盛土に傾斜センサーを設置し、大雨や地震後に変動が確認された場合は、少なくともセンサー設置箇所には近寄らなければ、命を守れます。また、SAR衛星データの差分解析により地盤変動が顕著な擁壁や谷埋め盛土を特定し、その箇所に傾斜センサーを設置することも、事前防災の観点で有効といえます。

斜面の変動をミリ単位で捉える2つの先端技術のポイント

1.SAR衛星による地盤変動解析:広域監視

JAXAの「だいち2号」などに搭載された合成開口レーダー (SAR) を用います。

  • 雲を透過するマイクロ波を使うため、天候や昼夜を問わず計測可能。
  • 過去データとの比較により、ミリ~センチ単位の変化を面的に把握。広域な住宅地の優先順位付けに有効。

2.傾斜センサー (クリノポール):リアルタイム監視

斜面が崩れる直前の「傾き」を24時間体制で検知します。

  • 防災科学技術研究所との共同実験 (時間50mmの降雨) では、降雨開始後1時間程度に斜面変動を検知し、発生までの4時間半にわたる詳細な挙動を捉えることに成功。

2つの技術を組み合わせて利用することで、災害が起きる前に対策をする「事前防災」の観点においても有効な手立てとなります。

土砂災害に強い都市を未来に引き継ぐために

都市型斜面災害は「たまたま起きたレアケース」ではありません。私たちの住んでいる街の近くで今後起こりうる災害です。

技術の利用も重要ですが、災害に強い都市 (まち) づくりは、そのまちのコミュニティが鍵を握っています。コミュニティを形成する住民一人一人の行動が一番大切です。

個々の住民が土砂災害に対して、できることには限りがあります。ただし、それぞれが災害の根本を知り、それを踏まえた災害リスクを回避する行動 (例えば早期避難) を取れば、少なくとも自分の身は守れます。そして個々の取り組みをコミュニティで共有すれば、周囲の人の安全確保にもつながります。

例えば、支援が必要な人への見守りや声かけを行うなど、できる範囲で支え合うことで、コミュニティの防災力向上が期待できます。人口減少社会が到来した日本ではコミュニティの維持が危ぶまれてはいますが、相対的に都市域のコミュニティには大きなポテンシャルが十分あるはずです。

土砂災害に強い都市 (まち) づくりには、今日お話しした内容の実践に加え、行政による支援のもとで、紹介した技術の活用も一つの有効な手段と考えられます。

また、土砂災害を含む自然災害全般への備えとして、危機管理対策を支えるさまざまなソリューションの活用も、今後ますます重要になっていくでしょう。

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