地盤沈下や地表の陥没につながることもある「地盤リスク」
地盤リスクとは?
2015年に発覚した横浜市のマンション傾斜問題、2016年11月に起きた博多駅前の道路陥没事故など、報道で大きく取り上げられたこれらの事故を覚えている人も多いのではないでしょうか。
実はこれらの被害は、地中に潜む「地盤リスク」に関係しているという共通点があります。
地盤リスクとは、地下掘削工事などの際の落盤や地表の陥没事故、地盤沈下などを引き起こす恐れのある、目には見えない地盤内部の不確実性のことを指します。
私たちがふだん目にすることのない地面の下は、実はとても複雑な構造になっていて、地質は均等ではなくむらがあります。土や砂、岩盤などにより構成されている地盤の内部は、場所によりその性質や状態が異なり、ときには急激に地質が変化している箇所もあるからです。
地盤や地質の調査は、地下掘削工事をしたり、建物を建築したりする際に、建設地の地盤の状況を把握し、トンネルや基礎などの設計に必要な工学的な情報を得るとともに、施工上のリスクがないかを調べることを目的に行われます。こうした調査は従来から行われており、調査方法もノウハウが積み重ねられた確かなものですが、それでも場所により地質の急激な変化がある場所などではそれを見落としてしまうことがあり、そのことが原因となってさまざまな事故や災害につながってしまうことがあるのです。
地質や地盤に関連する事故や災害を未然に防ぐために、より正確に、より効率よく地盤リスクを捉えることができる技術へのニーズが高まっています。
地盤リスクを正確に見極めることの難しさ

そもそも日本列島は4つのプレートがぶつかる場所の上に位置しているため、活発な地殻変動により山地が発達し、地盤も複雑な地質構造により形成されています。さらに、雨が多く著しい浸食作用を受けているため、地形や地質もぜい弱で不安定です。
単調な地質構造を持つ欧米の大陸などに比べて、日本の国土は複雑かつぜい弱な地質であり、それゆえ地盤リスクが高いとされています。
地盤や地質の調査には、主にボーリング調査等の手法が用いられてきました。ボーリング調査では、複数の地点から採取した土や岩のサンプルから、全体の地質構造を推定します。地盤リスクの見落としを防ぐためには、調査をする地点をできるだけ増やすことが理想ですが、コスト面などから限界もあり、実際にはごく限られた数のボーリング調査による「点」の情報から、全体をイメージするしかありません。
また、これら地質調査の結果にもとづき専門技術者が建設地の地質構造全体をイメージしますが、企業の技術力の高さや技術者の熟練度により、上記のイメージも異なってくることがあります。地面の下は目に見えないため、能力や経験により、イメージした地質構造にばらつきが出てしまう可能性もあるのです。
こうした地質の判断の難しさが、建設工事の手戻りや工期の延長、陥没事故などの公衆災害につながってしまうことがあるのです。
見えない地盤リスクを可視化する「地盤3次元化技術」

地盤3次元化技術とは?
ここまで紹介したように、人の目では見ることができない地盤内部の構造は、正確に把握するのがとても難しいものです。そこで、期待されているのが、地盤内部を3次元で可視化する「地盤3次元化技術」です。
地盤3次元化技術とは、従来のボーリング調査の情報に加え、電気や電磁波、微小な振動などの物理現象を利用した「物理探査技術」を活用して、調査により得られたデータに基づく地盤内部の地層の3次元的な構成を、コンピューター上で3Dモデルに表すことで可視化する技術です。
病院で使われるCTスキャンやMRIが体内を3次元で可視化し隠れた患部を見つけるように、地盤3次元化技術は、地盤内部の見えないリスクを見つけやすくすることができる技術として注目を集めています。
地盤3次元化技術の活用例
地盤3次元化技術は、建設分野のDX推進に活用されているほか、防災・減災分野への活用も進められています。
建設分野への活用
建設分野ではDX推進の1つとして、BIM/CIMの普及が進められています。BIM/CIMとは、調査・設計、施工、維持管理の各段階で3次元モデルを共有し、連携・発展させることで、建設に関わるシステム全体の非効率や事故発生のリスクを低減させ、生産性向上を目指すイノベーションです。

応用地質の地盤3次元化技術は、技術者の経験に依存した「推測」イメージではなく、物理探査などにより地盤内部の物性量 (それぞれの地質が持つ3次元的な空間分布) を明らかにするもので、実測にもとづく高精度な地盤・地質の3Dモデルを提供することで、地質の専門技術者だけでなく、誰もが、どこに、どのようなリスクが存在するかを理解しやすくする技術です。
また、これらの情報を設計や工事、維持管理といった各建設段階で共有することで、適切にリスクマネジメントを行い、地盤リスクによる予期せぬ事故やコストアップなどの非生産性を予防することに貢献しています。
防災・減災分野への活用
近年の気候変動により、豪雨が頻発し、堤防の決壊や土砂災害などの被害も相次ぎ、防災・減災のための対策が緊急の課題となっています。日本各地で進められている防災・減災の取り組みでも、応用地質の地盤3次元化技術が活躍しています。

例えば、河川の氾濫に対しては、堤防の強靭化や健全度調査に、この地盤3次元化技術が用いられています。
近年、激しい降雨による河川水の増水により、越水や堤防内部への水の浸透によって、河川の堤防が決壊する災害が増加しています。これらの決壊を防ぐためには、浸透や越水により壊れやすい場所を発見し、個別に補強工事などを行う必要がありますが、そもそも河川周辺の地形や地質は複雑で変化に富んでいるうえ、堤防も場所により何十キロにも渡る長い構造物であるため、従来の調査方法では決壊リスクの高い場所をピンポイントで見つけるのが難しいことが課題となってきました。
応用地質では、河川の堤防の効率的な調査と局所的な弱部の把握のため、牽引式電気探査技術を用いた「河川堤防健全度評価システム」を提供しています。
電気探査とは、地面に電気を流し、地盤内部の構成物の電気の流れにくさなどを測定することで、地質の性質や構造を調べる調査方法です。
最新式の牽引式電気探査は、地表で人が探査機器を引っ張って動かすだけで、地下十数メートルから地表付近までの地質の情報を、河川や堤防に沿った連続的な形で効率的に調べることができ、またこれらの結果を3Dモデルに再現することもできます。
応用地質が提供する河川堤防健全度評価システムは、3次元地盤モデルを活用して、堤防の災害に弱い部分を効率よく把握し、適切な対策工事を導き出すことで、堤防の強靭化と災害に強いまちづくりに貢献しています。


地すべりに関する防災のための地盤3次元化技術の活用

地盤3次元化技術は、地すべりを防ぐための対策にも活用されています。
地すべりは斜面の一部あるいは全体が、地下水と重力の影響により、斜面の下方へ移動する現象のことです。移動する土砂の量が非常に多いため、甚大な被害をもたらすことがあります。
地すべりの被害拡大を防ぐために、原因となる地下水を排除して、地すべりの動きを止める工事が行われますが、地盤内部のどこにどのくらいの地下水があるのかは、従来のボーリング調査をはじめとする点や線の調査では正確に把握することが困難でした。
応用地質では、電気を用いた3次元物理探査技術を活用して、3次元での地質構造や地下水分布を可視化しています。特に、雨が多く降る時期と、渇水期との地下水の変化の量を3次元で可視化することで、どの場所に地下水が多く分布しているかを明らかにし、その場所を狙ってピンポイントで地下水を排除する工事を計画することができるのが特徴のひとつです。
地盤3次元化技術を活用することで、効果的かつ効率的に地すべりを抑制することに貢献しています。