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コラム

都市型斜面災害とは?地震や豪雨による土砂崩れ・擁壁 (ようへき) 倒壊の原因と命を守る対策方法〈前編〉

2026.06.12

都市部の住宅地で発生する土砂災害「都市型斜面災害」の原因と対策を分かりやすく解説。古い擁壁の亀裂や「盛土 (もりど) 」の脆弱性など、地震や豪雨時に命を脅かす地盤リスクとは?専門家による最新事例の分析と、SAR衛星・センサーを用いた最先端の予防保全技術を紹介します。

「地震や豪雨が来たとき、あなたの家を支える地盤は本当に安全ですか?」

人口が密集する都市部で、住宅地の斜面や擁壁が突如崩れる都市型斜面災害が急増しています。2024年の松山城、2025年の杉並区の事例は、決して他人事ではありません。

本記事では、最新の甚大な被害事例を振り返りながら、都市特有の土砂災害リスクとその対策を詳しく説明します。

日常の裏側に潜む「都市型斜面災害」のリスク

私たちが暮らす整備された住宅地でも、突然発生する危険性があります。山間部ではなく、人口が密集する「都市部」で発生する土砂災害を都市型斜面災害と呼びます。

近年の被害状況は、これまでの常識を覆す規模に達しています。

  • 愛媛県松山市 (2024年) :人口50万人を擁する大都市の中心部で土石流が発生。住宅が倒壊し、3名が犠牲となりました。
  • 東京都杉並区 (2025年) :閑静な住宅街で高さ4〜5mの擁壁が突如倒壊。瓦礫が通路を塞ぎ、隣接するマンション敷地まで押し寄せました。

なぜ「一般的な住宅地」が崩れるのか?

都市部の斜面の多くは、高度経済成長期に山を切り拓き、谷を埋めて作られた「人工的な土地」 (=谷埋め盛土) です。造成から50年以上が経過し、目に見えないところで老朽化と不安定化が進行しています。

  • 見落とされた「盛土」:昔の谷を埋めた場所は、大雨で地下水が溜まりやすく、崩落のリスクが潜んでいます。
  • 限界を迎えた「擁壁」:昭和に作られた古いコンクリートの壁が、近年の記録的な豪雨に耐えきれず、前兆が把握されにくいまま崩壊に至る場合がある事例が相次いでいます。

命を守るために今すぐやるべき3つのこと

  1. 「大規模盛土造成地マップ」の確認:自分の家が「谷埋め盛土」の上にないか自治体Webサイトでチェックする。
  2. 擁壁の「水抜き孔 (一般には水抜き穴)」の観察:擁壁にある穴から濁った水が出ていないか、詰まっていないかを確認。
  3. 「異常」の早期報告:地震や豪雨の直後に道路の亀裂や石垣のひび割れを見つけたら、またその程度が悪くなっていたら、すぐに自治体へ相談する。

次章からは、防災・インフラの専門家である矢部満氏 (応用地質株式会社) の知見に基づき、より専門的な都市型斜面災害のメカニズムを深く掘り下げます。

【専門家解説】戦後日本の開発が生んだ「長年の蓄積により顕在化したリスク」

都市型斜面災害の定義と歴史的背景

都市型斜面災害は、戦後復興・発展した結果による日本の特徴的な災害といえます。

国土の70%が山地の日本において、戦後都市域が平地から丘陵・山地と"郊外"に広がるにつれて、もともと斜面が多く存在する地域に必然的に住宅地開発がなされてきました。

丘陵や山地といった起伏がある地形での住宅地を造成する場合、切り盛りによって平らな土地にします。谷を埋めて造成した土地 (谷埋め盛土) は、造成後に適切な維持管理をしていないと不安定化し、最悪崩落する可能性があります。

また、切土、盛土によって出来た、あるいは元々あった自然のものも含めた斜面は、重力によって絶えず不安定状態に置かれています。したがって、一定以上の大きさの斜面には擁壁などの安定化対策が必要であり、その後の施設の維持管理も重要です。

丘陵を切り開いて造成された都市域の大規模住宅地の例

1960〜70年代の高度経済成長期に増大した住宅需要を満たすために、宅地造成は都市縁辺部の丘陵・山地に広がり進められました。造成によって膨大な数の擁壁や谷埋め盛土が作られ、郊外に大規模な住宅地が数多く生まれました。このような住宅地は開発から50〜60年以上を経過していることから、対策施設の老朽化が進んでいます。

一方、気候変動の影響で、近年豪雨の規模が大きくなり、その頻度も増えています。都市整備で採用されている雨水排水基準値 (多くは時間50mm) 以上の大雨により、排水施設で処理しきれない雨水が直接斜面に流れ込み、また浸透して地下水として、斜面の安定性に影響を与える可能性があります。

戦後日本の主要都市で開発されてから時間の経過した住宅地及びその周辺では、人口に加えてインフラ等の社会資本も集積していることから、豪雨の影響で土砂災害が発生すればそのマイナスの影響は計り知れないといえます。

ポイントまとめ

  • 谷埋め盛土の脆弱性:谷を埋めて平らな土地にした「谷埋め盛土」は、適切な維持管理がなされないと不安定化し、崩落のリスクを孕みます。
  • 高度経済成長期の遺産:1960〜70年代に造られた大規模住宅地は、開発から50〜60年以上が経過し、対策施設の老朽化が限界を迎えています。
  • 激甚化する気象:排水能力を超える「時間50mm以上」の雨により地下水が増大し、斜面が不安定な状態となります。

最新事例の深層分析:「前兆」の把握と対応の難しさ

近年発生した都市域での土砂災害について、それぞれ解説します。

まず、一例目は、2024年7月12日に愛媛県松山市で発生した土石流災害です。土石流によって松山城の城山に隣接した住宅が倒壊、住民3名の人命が失われました。通常、土石流災害は山間部の渓流で発生することが多いです。しかし、松山市の事例は、人口約50万人の大都市のほぼ中心部の市街地で発生したという、今までにない災害といえます。

2024年7月12日の松山城の土砂災害発生直後の状況

この災害については、災害発生原因を解明するための有識者委員会が組織され、調査が行われました。調査結果により、次の点が明らかになっています。

  • 「捨土 (すてど)」からなる谷埋め盛土斜面の崩壊:江戸時代~戦前にかけて松山城内で発生した瓦礫混じりの土砂が捨土として谷 (渓流最上部) に廃棄処理されていたこと。この捨土斜面が大雨によって不安定化・崩壊し、土石流として城山下の住宅地に流れ出たこと。
  • 斜面の不安定化の前兆現象:災害発生の4〜5年前より、谷埋め盛土斜面直上の舗装道路上及び周辺には、警報級の大雨の直後に路面亀裂や路肩崩壊といった"異常"が、城山公園を管理する行政によって調査・報告されていたこと。この結果から、谷埋め盛土斜面の不安定化がかなり前から進行していた可能性が高いこと。

上記の点は、都市型斜面災害を考える上で、示唆に富んだ内容といえます。

もう一つの事例は、2025年9月30日に東京都杉並区で発生した擁壁斜面の倒壊です。個人宅の鉄筋コンクリート造の擁壁 (高さ4〜5m) が倒壊し、瓦礫が接道する区有通路を塞ぎ、隣接するマンション敷地にも瓦礫が入り込んだものです。幸いにもこの災害による死傷者はいませんでした。

2025年9月30日の東京都杉並区の擁壁倒壊直後の状況
写真提供:東京新聞デジタル

この災害については、行政による公開情報やマスコミ報道の結果より、次の点が明らかです。

  • 建設後長く経過した古い擁壁の機能不全
    倒壊した擁壁は、1968年に建設され、約60年を経過していた古い擁壁だったこと。この擁壁倒壊の原因については、専門家 (京都大学釜井俊孝名誉教授、宅地防災専門) は、擁壁に設置されている水抜き孔の機能低下の可能性を指摘していること。つまり、大雨で上昇する地下水位に起因し、擁壁に作用する水圧を低減する水抜き孔が詰まっていた可能性があること。
  • 擁壁斜面の不安定化の前兆現象
    杉並区は1984年の調査で擁壁に亀裂があることを把握し、以降何度も擁壁所有者に是正のための行政指導をしていたこと。2020年代以降亀裂が大きくなり、住民からも不安視する情報提供があったこと。このことから、かなり前から擁壁斜面の不安定化が進行していた可能性が高いこと。

この2つの事例を通じて、私たちが留意しなければならないことは次のとおりです。

① 土砂災害の契機になる可能性がある斜面の存在

事例を通じて、不安定化した擁壁、谷埋め盛土による斜面の存在が、災害につながったことがわかります。まず、これらの存在を正確に知る必要があります。

擁壁は、詳細は別として目で見ればその存在はわかると思います。その擁壁の背後及び周辺がその昔谷であったかを知る必要があります。昔擁壁の背後が谷であれば、擁壁を含む背後一帯は谷埋め盛土の可能性が高いです。しかし、造成によって地形が大きく変わってしまったので、谷埋め盛土の存在の手がかりを得るのは簡単ではありません。

ここで、規模の大きい谷埋め盛土 (あるいは腹付け盛土) については、東日本大震災を契機に盛土の滑動崩落の危険性が指摘され、「大規模盛土造成地マップ」が国土交通省や自治体によって公開されています。この場合、一定規模以下の谷埋め盛土 (盛土面積3,000平方メートル未満) は対象外ですが、国土地理院などで一般公開されている古地図や航空写真などから過去の地形 (谷の存在) を調べることで、その存在を類推することができます。

② 擁壁や谷埋め盛土がある付近の構造物の状態

松山市や東京都杉並区の事例では、災害前に擁壁そのものや谷埋め盛土斜面上の舗装道路などに、亀裂といった斜面の不安定化を知る手がかりになる異常が認められています。そして、時間経過とともに、災害前に異常の程度が変化して (悪くなって) います。

これらの程度が刻一刻と変化する異常は、最終的に土砂災害の兆候になる可能性があります。特に地震や豪雨の後に、亀裂がその前に比べて大きくなったという場合は、要注意といえます。この異常の早期発見と経過観察を行い、その状況次第では防災上、地元行政との情報共有が必要です。

③ 異常箇所及び周辺の土地所有・利用状況

土地に生じた異常が進行し崩れて土砂災害が発生した場合、状況によっては、異常箇所があった土地所有者の管理上の責任が裁判上の争点になる場合があります。つまり、異常を踏まえて災害を予見できなかったかどうか、また予見を踏まえた適切な対処ができなかったかどうか、についてです。擁壁や谷埋め盛土のある土地所有者が行政あるいは個人を含む民間、いずれの場合でも訴訟になった場合、この災害予見性を踏まえた土地の管理責任が問題になるといえます。

一方、異常箇所周辺に行政が管理する道路や公園などの不特定多数の公的な土地利用がなされる場合、管理する行政の責任が問われる可能性もあります。すなわち、住民が道路、公園を公共施設として利用し被災した場合の、行政側の施設管理上の責任問題があるためです。

以上、都市型斜面災害の近年の事例を通じて、私たち (住民及び行政) が留意しなければならない点を述べました。このような都市型斜面災害のリスクは、今後日本の都市部でどこでも高くなるといえます。その理由の一つは、近年、豪雨が増加・激甚化する傾向にあるといえます。近年、豪雨に関する新しい気象用語として「線状降水帯」が気象庁により定義され、この言葉はニュースでも頻繁に登場しています。

ポイントまとめ

2つの事例から学ぶべき教訓「前兆現象への対応の難しさ」

事例①:松山城の土石流 (2024年)

  • 原因:江戸時代〜戦前に廃棄された瓦礫混じりの捨土が谷を埋めており、それが大雨で不安定化しました。
  • 見逃されたサイン:災害発生の4〜5年前から、道路の亀裂や路肩崩壊といった異常が調査・報告されていました。

事例②:東京都杉並区の擁壁倒壊 (2025年)

  • 原因:1968年建設 (築約60年) の老朽擁壁。「水抜き孔」の機能低下により、背後の水圧が異常上昇したことが原因とみられます。
  • 長期的な放置:1984年の調査で既に亀裂が把握されており、2020年代以降に拡大。住民からも不安の声が上がっていました。

都市型斜面災害を防ぐための3つの留意点

  1. 斜面の正体を知る:目に見える擁壁だけでなく、その背後がかつて「谷」であったかを確認する。大規模盛土造成地マップや古地図、航空写真での確認が有効。
  2. 構造物の「変化」に敏感になる:擁壁や舗装道路の亀裂が、時間経過や地震や豪雨の後に大きくなっていないか経過観察を行い、早期発見に努める。
  3. 土地の管理責任を自覚する:土地所有者 (行政・民間・個人) には施設の管理責任があり、異常を放置して被災した場合は責任問題や訴訟に発展する可能性がある。

ここまで、都市型斜面災害の歴史的背景や、見逃されがちな「前兆」の重要性について、専門家である矢部氏の知見とともに見てきました。しかし、私たちの街を襲う脅威は、構造物の老朽化だけではありません。近年、これまでの常識を根底から覆しているのが、激甚化する気象、そして「線状降水帯」という新たな変数の存在です。

後編では、最新の気象データが示す「都市のリスク」の衝撃的な変容と、人工衛星や精密センサーを用いた『地盤の可視化』という、命を守るための最先端テクノロジーに迫ります。

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