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コラム

自宅を支える地盤が地震や豪雨で崩れる!?住宅地に潜む「盛土リスク」とは?

2024.12.20

2021年の熱海土石流災害を契機に注目される「盛土リスク」。盛土は土地造成に不可欠ですが、適切な管理が行われないと崩壊の危険性が高まります。この記事では、盛土の種類やリスクを解説し、最新技術による安全性評価やモニタリング手法について紹介します。

熱海の土砂災害で注目が高まった「盛土リスク」

2021年7月、静岡県熱海市で大規模な土石流災害が発生しました。川沿いの民家が押し流され、20人以上の人命が失われたこの災害は、土石流の起点と思われる箇所にあった違法な盛土 (もりど) が被害を大きくしたとされています。

熱海の土砂災害は、盛土という存在が社会に広く知られるきっかけにもなった災害です。盛土自体は土地を造成する上で必要な工法ですが、適切な工事や管理が行われていない場合、地震や激しい豪雨などで崩壊するリスクが指摘されています。東日本大震災や熊本地震でも、盛土によって造られた宅地が崩れた例が数多く報告されました。

平地の少ない日本では、高度経済成長期以降、人口の増加に伴って、丘陵を切り開いたり谷を埋めたりして盛土工事を行い、多くの宅地が造成されました。このようにして形成された盛土造成地は、日本中に無数に存在していますが、昨今のこれまでにないような激しい降雨や大規模な地震の頻発により、その安全性が脅かされていると言われています。

造成宅地に潜む「盛土リスク」とは

そもそも「盛土」とはどんなもので、どんなリスクがあるのでしょうか。盛土と盛土リスクについて解説します。

盛土とは?

盛土とは、建物などを建てる土地を作るために、土砂を盛って平らにしたり、高くしたりして造成された部分のことをいいます。

盛土には、大きく分けて2つの種類があります。谷状の地形を埋め立てた盛土は「谷埋め」型、斜面に土砂を盛ってコンクリートやブロックの擁壁で土砂をおさえた盛土は「腹付け」型と呼ばれています。

盛土リスクとは?

盛土リスクとは、造成宅地の盛土部分がさまざまな要因から不安定になり、崩れる危険性が増していることを表しています。

盛土がある部分は、そもそも水がたまりやすい谷状の地形であること、腹付け型の擁壁と地盤の間に雨水が流入しやすいことなどから、土を盛った部分に水がたまりやすい性質を持っています。さらに、近年頻発している豪雨の影響などで、これまでにない量の雨が降るようになり、排水しきれなくなった雨水が盛土内に流れ込むことで、このような問題がより起こりやすくなっています。

特に問題視されているのは、適切なメンテナンスが行われていない盛土です。盛土造成地で適切な管理が行われないと、老朽化により擁壁にひびが入ったままになったり、排水のため設置された排水菅や側溝が詰まったりして、盛土部分に水がたまり、地盤を支える盛土の機能が低下してしまいます。

例えば、国道や県道などの道路はそれぞれの自治体等が管理者となっており、管理責任者が明確で、その責任において定期的なメンテナンスが行われています。しかし、住宅開発によって造成された土地は、多くの場合、維持管理の責任の所在が不明確で、ほとんど放置されているケースも少なくありません。

また、造成された年代が古い盛土は、適切な擁壁や排水施設が設置されていないことがあり、問題が起こりやすいとされています。

すべての盛土にリスクがあるというわけではありませんが、老朽化が進んでいたり、適切な管理がされていなかったりする盛土造成地は、地盤が不安定になっている可能性があり、早急な調査と対策が必要になっているのです。

盛土規制法の改正と防災のためのチェックポイント

盛土をめぐる法律や規制の内容

2021年の熱海の土砂災害を受けて、これまで都市部における宅地造成のための盛土等を規制していた「宅地造成等規制法」が抜本的に改正され、2023年5月に「宅地造成及び特定盛土等規制法」が施行されました。

改正前の宅地造成等規制法と「大規模盛土造成地マップ」

改正前の「宅地造成等規制法」は、宅地造成に伴い災害が発生するリスクの高い土地の区域を指定し、この区域内で宅地造成に関する工事を始める際には都道県知事等の許可を受けることや、許可のために必要な工事の基準等を定めたものでした。

また、2006年の「宅地造成等規制法」改正に伴い、宅地耐震化推進事業が創立され、大規模盛土造成地の安全性や宅地の液状化被害リスク等の調査を進め、住民への情報提供を図るとともに、安全のための対策工事の実施が求められることになりました。

これを機に調査結果がまとめられ、自治体ごとに規模の大きい盛土を地図上に表示した「大規模盛土造成地マップ」も公開されています。

盛土の規制を強化する「宅地造成及び特定盛土等規制法」

これまでの盛土に関する法律には、宅地造成等規制法のほかに、森林法や農地法等があり、それぞれの法律の目的に応じて規制が行われてきました。しかし、土地の用途によって法律が異なることで、盛土等による災害を防ぐためには規制が十分でないエリアが生まれてしまいました。

2021年に静岡県熱海市で発生した土砂災害では、上流の違法な盛土が被害を大きくしたとされています。この災害をきっかけに、土地の用途や利用目的に関わらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制するために施行されたのが「宅地造成及び特定盛土規制法」です。

この新たな規制法では、隙間のない規制を行うため、都道府県知事等が盛土等による被害を及ぼしうる区域を、土地の用途に関わらず広く規制区域として指定し、区域内の盛土工事等は許可が必要となることを定めています。また、宅地造成だけでなく、単なる土捨て行為や一時的な堆積も規制の対象となります。

さらに、盛土等の安全性を確保するために、盛土等をエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な擁壁や排水施設、地盤の締め固め等について許可基準を設定し、必要な対策工事が行われているかどうかを確認するため、定期的な報告や施工中の現地調査、工事完了時の確認を行うこととしています。

また、盛土等が行われた土地について、土地所有者等が安全な状態を維持する責任があるとし、維持管理の責任の所在が明確化されたほか、罰則を強化し、悪質な業者には行政処分を下すことなどが定められています。

国土交通省が紹介している宅地点検のポイント

国土交通省では大規模盛土の地すべりや崩落に関連して、マニュアルやガイドラインも作成しています。そのひとつ「わが家の宅地安全マニュアル」では、自宅周辺の宅地の安全と、不同沈下や液状化、土砂災害等の災害のリスクを知るためのチェックポイントが紹介されています。

例えば、盛土を含む宅地点検のポイントのひとつとして、自宅の壁や斜面を保護するブロック塀などの異状が挙げられています。地盤が不安定になっていると、弱い部分が局所的に沈下して土地や建物が傾き、自宅や周囲の建造物にひびや割れ目などができることがあるからです。

また、擁壁の排水機能が低下すると地盤が不安定になりやすいため、排水溝や水抜き穴が詰まっていないかどうか、擁壁から水がしみ出していないかどうかなども、点検しておきたいポイントとされています。

盛土のリスク判定や対策工事には専門的な知識が必要です。自宅が盛土造成地に該当するか確認したい、あるいは、自分でチェックして異状が見られたといった場合は、自治体や地質調査の専門家に、詳しい調査や対策について相談してください。

盛土の基礎調査とリスク判定からモニタリングまでを効率化・高度化する最新技術

大きな地震のたびに盛土造成地が崩れ、多くの住宅が被害を受けている現状を受け、全国で大規模盛土造成地に対する調査や対策工事が行われています。

応用地質では、見た目ではわからない盛土の有無や規模を調べる基礎調査から、災害などの影響による危険度の判定、継続的なモニタリングまで、効率よく、精度の高い調査や監視を行える最新の検査技術とデータ解析を提供して、このような盛土の調査・対策をサポートしています。

AIや衛星を用いた盛土調査・監視の最新技術

盛土に関する基礎調査では、航空LP測量データ (航空機からレーザーを照射してスキャンした測量データ) を元に、以下のような安全性に関する情報を把握します。

  • 災害発生リスクが高く地図では判別しにくい小さな谷をAIにより自動抽出
  • 盛土の分布や盛土の変状 (盛土が安定性を損なっていることを示す異常など) の有無
  • 地形条件や盛土の形態など

さらに、衛星SAR画像 (衛星からレーダーを照射することで生成された地表の画像) を解析し、対策工事の必要性や緊急度の判定をすることにも役立てています。衛星SAR画像の解析では、盛土や周辺の地盤沈下などを示す変動量 (地盤の高さの微小な変化) を、過去にさかのぼって検出することが可能で、盛土の時系列的な変化を追跡することもできます。

古いものや小規模なものでは、盛土があると把握されていない土地もあります。盛土を見つけるためには、新旧の地形図や光学画像 (可視光線を使って測定したデータを写真のように表した画像) を比較するのが一般的ですが、草木が生い茂ってしまって地形が見えにくく、盛土を見つけるのが難しいケースも多くあります。

応用地質では新旧地形図の標高値の差分解析や光学画像による既存盛土の抽出、さらに航空LP測量によって得られる高解像度の標高データを用いることで高度な地形解析を行い、既存盛土の見逃しを抑止することができます。

また、現地調査が困難な箇所での変状の有無や進行性を確認する方法として、衛星SAR画像解析を用いて既存盛土や周辺の変動量を過去に遡って検出するサービスも提供しています。特にSENTINEL衛星画像 (2014~2018年、一部地域は2022年) を用いた変動解析では、日本全土の変動解析を実施済みであり、これらの解析結果を利用して盛土のモニタリングを行うことができます。

盛土の現状の正確な判定とモニタリング

盛土の現状を知るために活用されているのが3次元常時微動トモグラフィです。交通や経済活動によって生じる微弱な振動を測定することで、地盤内部の振動の伝わり方から地質の構造を推定することができる技術です。

応用地質が開発したケーブルレス・GPS機能付きの収録機を地面に複数設置し測定することで、広大な範囲の地盤内部の構造を非破壊かつ立体的に可視化することができ、盛土の範囲や厚み、全体的な形状を推定したり、安全性を評価したりすることができます。

3次元常時微動トモグラフィの収録機やデータのイメージ

安全性評価の結果、継続的なモニタリングが必要とされた盛土では、広範囲でリアルタイムに斜面の変化を感知するセンサーによる遠隔での常時監視も提案しています。

ハザードマッピングセンサー「クリノポール」は、斜面のわずかな傾きや変化を感知するセンサーで、一定の範囲に複数台設置することで、斜面の状態を面的に常時モニタリングすることができます。

クリノポール
クリノポール設置事例 (近景)
クリノポール設置事例 (遠景)
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