導入が推進される洋上風力発電
わが国では、2050年カーボンニュートラルを掲げ、2030年度の温室効果ガス削減目標として、2013年度と比較して46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの方針を示しています。また昨年10月に閣議決定されたエネルギー基本計画では、再生可能エネルギーについて最大限の導入を促すとしています。
その切り札として注目されているのが洋上風力発電です。日本は、国土の約7割が山地であり、太陽光発電や陸上風力発電を大規模に導入するためには適地が限られている一方、四方を海に囲まれており、しかも海上は、障害物が少ない上に安定的に強い風が吹くことから、海の上で発電を行うこの技術に期待が集まっているのです。政府では、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW~4,500万kWの案件を形成するなどの目標を掲げています。
超高層ビルの高さに匹敵?!洋上風力発電施設とは
風力発電は、風の力で風車を回し、回転運動を電気に変換する発電システムです。そのメリットは、太陽光発電と違い、昼でも夜でも一定の風があれば電力を生み出してくれるという点にあります。燃料を使わず、自然の力を利用するので、エネルギー資源の枯渇につながらず、また、温室効果ガスの排出もしないクリーンなエネルギーです。
前述の通り、海上は、陸上に比べて強い風が安定して吹くため、電力の供給を安定させやすく、風力発電に適しています。また、海上のもう1つのメリットとしては、風車を大きくさせやすいという点があります。海上は、陸上に比べて輸送、設置などにかかる制約が少なく、設備を大型化することが可能で、大量のクリーンエネルギーを効率的に発電することができるのです。
実際に洋上風力発電施設は、日々大型化が進んでおり、現在導入されている8MWクラスでは、ブレード(羽根)の長さが80m、最大高さは200m近くにも及びます。欧州では、ブレードを組み合わせたローターの直径が220m、最大高さが260mにも及ぶ施設の建設が始まっており、その大きさは50階建の超高層ビルに匹敵します。

洋上風力発電の設備に求められる強靭さ
このような大規模な構造物を海上に建設するためには、地盤が風車の重みなどで変形し、風車が倒壊したりしないよう、立地する海底地盤に対しては、その強度や性質などを十分に調査する必要があります。
また、洋上風力発電の先進地域である欧州とは異なり、日本では自然災害が多いという課題があります。地震や津波、台風などによって設備が壊れたりしないよう、十分な強靭さを備えていることが国の技術基準によって要求されています。具体的には、風圧や水圧、波浪、稀に発生する(50年に1度程度の)大きな地震などによって設備が損傷せず、発電設備としての機能が維持されるとともに、極めて稀に来る(500年に1度程度の)巨大な地震によっても風車が倒壊しないこと等が求められています。
このような自然災害に対しても十分な強度を持つ設備を設計する上でも、地盤調査は大変重要な役割を果たします。

応用地質による海底地盤調査の技術開発
応用地質では、急速に拡大する洋上風力発電の市場において、海底地盤調査の分野で貢献しています。
海底地盤調査は、巨大な風車の荷重や風圧、水圧などに耐えうる基礎構造(地盤に接し、上部構造物を支える基礎部分)の設計に用いる専門的な数値を算出するために不可欠なプロセスです。
しかしながら、日本の海底地盤は、これまであまり開発されて来なかった経緯から、内部がどのような構造になっているのか、実はよくわかっていません。また、地盤調査のための技術も、広い海域で多数の風車を建設する洋上風力発電に適した方法は、日本では開発されてきませんでした。欧州では洋上風力発電が盛んに行われていますので、欧州の効率的な方法を日本に持って来れば良いと考えたくなりますが、欧州と日本では、地盤の成り立ちや性質が異なるため、同じ手法で調査を行ってもうまく設計が出来ないということもわかってきました。このため日本では、従来の調査技術を適用しつつ、効率的で安価な新技術を開発するとともに、欧州など先進地域での技術の適用に向けた研究などが同時平行で行われているのです。
耐震設計に用いられる海底地盤調査技術
地震の波は、震源地から地盤の中を伝わって発電施設まで到達します。そして、地震の波の伝わり方は、地盤内部の構造によって大きく変化します(増幅特性)。このため、発電施設の耐震設計を行うためには、その地域で予想される地震動がどのように地盤内部を伝って変化し、発電施設に作用するのかを地盤調査によって地盤の内部構造をモデリングした上で、シミュレーションする必要があります。すなわち、耐震設計で用いるべき地震動の強さや特性を模擬的に作るのです。

その際、より確からしい地震動を検討するためには、高い品質の地盤調査と、精度の高い地盤のモデリング技術、そして地震学や地震工学など、地震防災に関わる専門的な知見が欠かせません。
応用地質では、広域な海底を効率的に調査する新技術や、高精度な3次元地盤モデリング技術、地震防災に関わる国内随一の調査・コンサルティング技術により、洋上風力発電施設の耐震設計を強力にサポートしています。
応用地質グループの最新技術例
1. 海底微動アレイ探査法

微動アレイ探査は、波浪などの自然現象や交通振動等から生じる地面の微小な揺れ(微動)を測定することで、地盤内部の構造(S波速度構造)を調べる方法です。微動センサが組み込まれた錘を海底に沈めるだけで広いエリアの地盤構造を把握することができ、大型の作業船なども必要としない、低コストで効率的な調査技術です。
2. Single-Pass Survey (開発中)



グループ会社のオーシャンエンジニアリングで開発中の最新技術です。
調査船で海上を航走しながら、海底地形や浅部の地質構造、水深、不発弾の有無などの情報を一度に取得でき、大幅な作業効率の向上とコスト縮減を図ることが出来ます。
3. 海底地盤3次元化技術

ボーリング調査や海底微動アレイ探査など、各種の調査で得られた地盤情報を3次元モデルに統合し、広域な海底の地盤構造を可視化します。3次元で可視化することで、誰もが地盤の内部の状況を理解しやすくなり、その後の発電施設の設計や施工においてもその情報を引き継ぐことで、安全かつ効率的に事業を進めることができるようになります。
応用地質では、洋上風力発電の普及に努めるお客様の事業を支援し、市場のさらなる活性化に寄与することで、わが国の温室効果ガス削減目標の達成に貢献します。
- 関連リンク
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- オーシャンエンジニアリング株式会社
- 応用地質サービス情報「洋上風力発電支援サービス」
- 国際連合広報センター「COP26、気候に関する「妥協」協定とともに閉幕するも、国連事務総長は「不十分」と指摘 (UN News記事・日本語訳)」
- 内閣官房・経済産業省・内閣府・金融庁・総務省・外務省・文部科学省・農林水産省・国土交通省・環境省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 (令和3年6月18日)」
- 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について」
- 国土交通白書2021「コラム 洋上風力発電を支える港湾」
- TEPCO 東京電力リニューアブルパワー「風力発電のしくみ」
- センサイト・プロジェクト「洋上風力発電に関する世界の状況、技術の進展、日本の課題、長崎の取り組み(2)」
- NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「3. 着床式洋上風力発電の導入手引き」
- 東京海上日動「巨大リスクとの対峙"洋上風力"への挑戦」
- SOMPOホールディングス「洋上風力発電事業者向け「ONE SOMPO WINDサービス」の販売開始 ~洋上風力固有リスク評価サービスと包括保険を一気通貫で提供~」
- 国土交通省 洋上風力発電施設検討委員会「洋上風力発電設備の施工に関する審査の指針 (令和2年3月版)」
- 一般財団法人 沿岸技術研究センター 機関誌 CDIT No.39「Part1 コースタル・テクノロジー2012特別記念講演 我が国の洋上風力発電の技術課題と将来展望 石原 孟 (東京大学 大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授)」
- NEDO 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「4 基本設計」
- 国土交通省 洋上風力発電施設検討委員会「洋上風力発電設備に関する技術基準の統一的解説 (令和2年3月版)」