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コラム

愛媛大学・松山市の小学校と共同開発"通学路冠水監視システム"稼働開始

2023.02.01

通学路における児童の安全確保が大きな社会課題になっています。交通の安全だけでなく、自然災害により安全が脅かされている通学路も全国には沢山あります。子どもの命を守ることは地域社会にとって大きなテーマです。今回は、全国で初めて設置された、通学路を水害から守る防災システムについて、ご紹介します。

通学路冠水監視システムの稼働が開始

松山市の北部を流れる大川。同市の清水小学校の通学路の一部は、この大川に沿って続いています。その通学路の1箇所で、一昨年の9月、全国で初めての「通学路冠水監視システム」が稼働を始めました。これは川の護岸に3段階の高さでセンサを設置するとともに、対岸にカメラを設置し、川の水位を監視するシステムです。

同システムは、川が増水するとセンサが異常を検知し、小学校の教職員にメールで通知する仕組みになっています。センサの情報とカメラ映像によって川の状況が確認できるため、教職員が危険な状況で現場を見にいく必要もありません。学校では、通知を確認して、氾濫の恐れがある場合などには、保護者を通じて児童に登校しないよう連絡をします。

システムを開発したのは、愛媛大学(安原英明教授:四国CX研究会 会長)と応用地質。清水小学校から愛媛大学へ寄せられた相談を受け、通学路の安全を守る目的で、防災IoTセンサを組み込んだシステム設置プロジェクトが動き出しました。

きっかけは、平成30年の西日本豪雨。この時、大川でも増水し、システムが設置された地点で水位が上がりました。この場所は、過去にも大雨の時に氾濫したことがあります。

住宅地などを流れる中小河川は、大雨の際に大河川よりも急速に増水しやすい反面、国や県による水位計が設置されていない場所も多く、警戒情報が行き届かないことがあります。このため、河川氾濫の危険を検知し、いち早く地域住民に注意を促す中小河川向けの警戒システムが求められていました。

今回の通学路冠水監視システムについて、システム開発と設置に関わった応用地質 計測システム事業部の八木 雅 主任にお話を伺いました。

応用地質と愛媛大学・清水小学校で共同開発

地元メディアの取材に応じる愛媛大学 安原教授(左)と応用地質 八木主任

どのような経緯で愛媛大学、清水小学校と協力することになったのですか?

少ない電力で長距離の通信ができる無線通信技術であるLPWAを研究している愛媛大学の安原先生へ清水小学校側から依頼があったのです。当社は四国CX研究会の会員として、安原先生のLPWAの研究でいくつか取り組みを進めており、清水小学校の案件が浮上した際には協働してセンサとカメラを提案し設置しました。

3者での協働はどのように進められたのでしょうか?

清水小学校では、児童の安全のため、豪雨時に教職員が朝早く現地確認を行う必要がありました。その行為自体も危険を伴うもので、学校にとっては問題でした。このため、当社のほうで実際の通学路の状況を確認した上で、センサとカメラを活用した通学路冠水監視システムを提案し、愛媛大学の協力のもと設置を行いました。

3者の役割、特に応用地質の役割はどのようなものでしょうか?

センサとカメラを活用した通学路冠水監視システムの導入およびサポートです。

センサは応用地質の"冠すいっち"

通学路冠水監視システムの仕組みを簡単に教えてください。

通学路冠水監視システムは、当社で開発した冠水センサ「冠すいっち」とカメラで構成されます。冠すいっちは、川の増水を多段階で検知し、関係者に危険を知らせるセンサです。冠水センサを河川の護岸に「低・中・高」と危険度レベルに合わせた高さに設置し、川の増水で各センサが水に浸かると、登録されたメールアドレスに自動でメールが発信されます。カメラは通学路の橋と水面を映すように固定して設置され、毎朝5時に自動で撮影し、その映像がクラウドにアップされる仕組みになっています。

実際に、どのように運用されているのでしょうか?

小学校では、豪雨時などにセンサが反応すると、教職員へメールが届くようにしています。メールでは、水位状況と危険レベルを通知します。またその際、カメラ撮影した画像を見ることができます。センサで異常を検知した時点で、遠隔地にいても現地の状況を確認することもできるため、教職員がセンサ情報とカメラ映像を確認した上で、いち早く防災措置をとることにお役立ていただいております。

冠すいっち (通信部)
冠すいっち (センサ部)

これらの技術は、通学路以外でも使うことはできるのでしょうか?

冠すいっちは現在、河川・アンダーパスといった冠水頻発ポイントに設置され、水位の遠隔監視装置として利用されています。カメラも同様に視覚的な情報を得るため、センサ設置場所を眺めるように設置されています。ユーザーは自治体の河川管理者や道路管理者などになります。管理者は、現地に赴くことなく、メールと画像で現地状況を遠隔で確認することができ、いち早く地域住民への避難の呼びかけや通行止めなどの初動対応を取ることができます。

通学路の更なる安全を目指して

同システムに関し、今後、どのように展開させていきたいとお考えですか?

今回は、通学路における児童および教職員の水害に対する安全を確保する目的でこのようなシステムを提供しました。このようなケースは全国に多数ありますし、検知すべき事象も、河川氾濫だけでなく、内水氾濫や土砂災害など様々あります。ですから、今後は様々な種類の自然災害に対応した通学路防災監視システムを、四国をはじめ全国に展開していければと思っています。

また、当社の防災・減災サービスや製品の提供先は、これまでは国や自治体、民間企業が中心でしたが、地域の学校を対象としたものは今回が初めてではないかと思います。今回の事案をきっかけに、より一般の皆様にとって身近で、わかりやすい形で、幅広くソリューションを展開していきたいですね。

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