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コラム

急速に広がるデジタル防災~防災DXの意義を考える

2023.01.20

防災分野でも急速に取組みが広がっている"DX"。今回は、日本での「防災DX」の動向を概観するとともに、その意義などについて考えてみたいと思います。

そもそもDXとは?

最近は、DXという言葉をよく聞くようになってきました。DXは、デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation) の略で、経済産業省が2020年に公表した「デジタルガバナンス・コード2.0」によると、DXについて以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

引用:デジタルガバナンス・コード2.0 - 経済産業省

ただし、DXの提唱者と言われているErik Stoltermanは「デジタル技術が人間の生活のあらゆる面で引き起こす、または影響を与える変化」と定義しており、本来はビジネス領域だけに限られた概念ではないようです。

防災分野でも進むDX

さて、ビジネス分野では盛んに叫ばれているDXですが、実は防災分野でもDXの取組みは進められています。

ではなぜ、防災分野でのDXが求められているのでしょうか?

その背景には、気候変動などの影響で、水害や土砂災害などの自然災害が従来よりも頻発化し、その被害も広域化、激甚化するようになったことがあります。また、少子化の影響により、地域の防災を担う自治体では人手不足や財政不足が深刻化しており、脅威を増す自然災害に対し、従来の防災体制では対応が追い付かなくなっている現状も背景にあると考えられます。

このような現状を打開する手段の1つとして、DXが防災分野でも注目されているのです。

日本で進められている防災DXの取組み例

現在日本では、国や自治体、民間など多方面で「防災DX」あるいはデジタル技術の防災分野への実装の取組みが行われています。

国の主導する取組み事例としては、内閣府が2021年に発表した「防災・減災、国土強靱化新時代の実現のための提言 (以下「内閣府提言」)」があります。自然災害による被害が相次ぐ中で、今後取組みを加速させるべき施策として、5つのワーキングチームによりそれぞれの提言をまとめたものですが、このうち「デジタル・防災技術」に関する提言では、「防災デジタルツイン」「リアルタイムの情報共有」「究極のデジタル行政能力の構築」「防災デジタルプラットフォーム」「防災IoTの構築」など、防災DXに向けた具体的な施策が盛り込まれています。

また、2021年には、上記の内閣府提言の一部も反映して「デジタル社会の実現に向けた重点計画 (以下「重点計画」)」が閣議決定されました(2022年に更新)。ここでは、「防災等の準公共分野のデジタル化」「防災情報プラットフォーム」「地方公共団体の防災業務のデジタル化」などの施策が明記されています。

日本での防災DXの取組み事例一覧

2014
2020
2021
2022

民間でも防災DXの取組みが活発化

一方、行政だけでなく、民間でも防災DXの取組みは進んでいます。

代表例として、「防災コンソーシアムCORE」があります。防災コンソーシアムCOREは、「国土強靭化基本計画」に沿った防災・減災の新たな取り組みを民間主導で加速・推進すべく、2022年4月に14企業で設立されました。2022年12月現在では、参加企業・法人は81社に上ります。災害を「自然現象 (偶然)」ではなく「社会現象 (必然)」と捉え、最新のデジタル技術を含むあらゆる技術で"防災・減災"に寄与するソリューションを創出・社会実装すべく、現在、コンソーシアム内の分科会で様々な企業が活動を行っています。

具体例としては、防災IoTセンサやカメラ映像を活用して災害発生の予兆や被災状況を伝えたり、デジタル技術を駆使して自治体の被害調査の省人化・効率化を実現したりする技術・サービスの開発などがあります。様々な企業がそれぞれの専門技術や保有資源を持ち寄ることで、これまでにない、トータルな防災ソリューションの創造を目指しています。

また、官民が連携し、防災DXに取り組む動きとしては、2022年にデジタル庁 が主導し設立された「防災DX官民共創協議会」があります。その設立の目的は、公式サイトによると「災害による国民一人ひとりの被害・負担の軽減に資する平時・有事の防災DXのあり方を、民が主体的・協調的に追求し、官民共創により実現」とされています。活動はまだ始まったばかりですが、今後、防災DXに向けて課題の検討やデータ連携基盤の整備などを官民で協議して進められていくとのことです。

防災で活用が進むSNS

DXと呼べるかどうかは別として、近年ではツイッターやLINEなどのSNSが防災情報の取得に幅広く活用されており、実際に避難などで役に立ったとの事例も出てきています。SNSは、ユーザー1人1人が被災情報を発信したり、自治体によるLアラート(災害情報共有システム)の発信情報を拡散したりすることで、きめ細かく、大量の情報をリアルタイムに入手できるというメリットがあります。

総務省が2017年に発表した「熊本地震における情報通信の在り方に関する調査結果」によると、2016年の熊本地震では、発災時・応急対応期・復旧期を通じて、SNS(LINE(家族・友人・知人等))の利用は、携帯電話での通話、地上波放送についで多いという結果でした。

当時よりも現在のほうがSNSの利用率は高まっていることを踏まえれば、さらに活用は進んでいると考えられます。

株式会社ICT総研「2022年度SNS利用動向に関する調査」によれば、日本におけるSNSの利用率は、2017年が72.1%だったのに対し、2021年末では80.9%に上昇した。

【図1】熊本地震で被災者が情報収集に利用した手段

出典:総務省「熊本地震における情報通信の在り方に関する調査結果」
  • 時系列別に情報収集に利用した手段をみると、全期間を通じて携帯電話の利用が最も多く、次いで地上波放送、SNS(LINE(家族・友人・知人等))となっている。地上波放送及び行政期間のWebサイトについては、時間の経過により利用者が増加する傾向がみられる。
  • スマートフォン利用者は、スマートフォンで利用する手段が多いのに対し、未利用者では、携帯電話に次いで地上波放送の利用が多い。

一方で、モバイル社会研究所のアンケート調査結果によると、在宅時に災害にあった場合の情報入手手段としては、テレビが69%と最も高く、次いで防災無線やサイレンが50%と続きました。SNSは若年層になるほど利用率が上がりますが、情報収集手段としてのテレビなど従来メディアの役割は依然として大きく、特に高齢者など災害弱者ほど従来メディアを運用していることがわかります。

SNSの活用は広がりを見せているものの、誰もが簡単に情報を発信できる特性から、最近ではフェイクニュースが問題となっていますし、現状では多数の災害弱者が取り残されるリスクがあることからも、防災での活用はまだまだ課題があるとも言えます。

【図2】在宅時の災害情報入手方法

出典:「出典: NTTドコモ モバイル社会研究所ホームページ」モバイル社会研究所サイト利用規約に従い掲載

防災DXの意義とは?

防災の取組みに単純にデジタルを活用するというだけでは、根本的な解決にはつながらず、DXとは言い難いと思われます。

では、防災DXの意義 とは、どのようなものと理解すればよいのでしょうか。

デジタル庁は、デジタルによって目指す社会の姿として、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」と述べています。また、デジタル社会の実現に向けた理念・原則として、「誰一人取り残されない」ことを明確に記しています。

だとすれば、防災DXとは、単純にSNSやチャットボットなど最新の情報通信手段を防災に多用するといったようなことではなく、デジタルを活用することで、一人一人にあった防災の形をデザインしていくことが本来の意義であると言えるかもしれません。

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