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インタビュー

災害の到来をリアルタイムで実感「リアルタイムハザードマップ」とは?

2022.12.01

災害に負けない強靭な社会をめざす共同事業体「防災コンソーシアム CORE」。応用地質は創立から参画し、現在、分科会にて「リアルタイムハザードマップ」の開発にあたっています。開発の責任者であるサービス開発本部執行役員兼事業開発センターの井出修氏と実務を担う同センター・マネージャーの堀越満氏に、開発中のマップについてなどお話を伺いました。

「防災コンソーシアム CORE」とは?

「防災コンソーシアム CORE」とはどのようなものでしょうか?

井出防災・減災の新たな取り組みを民間主導で加速・推進する企業・団体の共同体です。気候変動等の影響により自然災害が増加・激甚化している現状を踏まえて、業界の垣根を越えて技術を融合し、災害に負けない強靭な社会をつくることを目指して2021年11月に発足しました。応用地質は、創立メンバーの13法人の一つとして、創立から参加しています。

「CORE」は、どのような組織で構成されているのでしょうか?

井出COREは、全体会と分科会で構成されています。全体会は、COREの運営方針の決定や、知見・成果の発信、国・自治体等との連携、産学官連携などを担います。分科会は、テーマごとに、法人間で協業して高度化されたサービスを創出し、また、そのサービスによる市場展開などを担います。

応用地質株式会社 サービス開発本部 執行役員 副本部長 兼 事業開発センター長 井出 修

リアルタイムハザードマップとは?

応用地質は「リアルタイムハザードマップ」分科会に代表企業として参画しています。この分科会で開発中の「リアルタイムハザードマップ」とはどのようなものでしょうか?

井出住民や企業が災害の危険性をリアルタイムに察知し、また実感できるハザードマップです。まずは水害を対象に開発を進めていますが、防災IoTセンサや防犯カメラ、SNSの情報を活用して災害の状況をリアルタイムに把握することが可能なシステムです。

どのような仕組みがリアルタイムハザードマップを可能にするのでしょうか?

堀越まず防災IoTセンサは、当社が開発・実用化している冠水センサや水位計等が実際の浸水状況や水位を検知する機能を担います。街中に設置されたカメラの映像からは、そこに映っている対象物が、水にどこまで浸かっているかをAIによって解析・判断します。SNSからは、投稿された写真などを解析する事で、どこで浸水が起こっているか、また、何センチ浸水しているかなどがわかります。これらの情報を広く集め、統合した上でマップ上に表示したり、3D映像で示したりすることで、水害の状況をリアルタイムで実感できるというものです。すでに街中に設置してある防犯カメラや、SNSの画像等を利用することで、全国を網羅する防災システムを低コストかつ迅速に社会実装できるという特徴・メリットがあります。

リアルタイムハザードマップ・3Dビジュアルイメージ (作成:応用地質株式会社、東京海上日動火災保険株式会社、株式会社Tengun-label)

従来のハザードマップや警報・注意報などとはどういうところが違うのでしょうか?

堀越従来のハザードマップでは、身近に迫る災害の到来が実感しにくいということがありました。また、気象に関する警報や注意報は広域に出されるため「自分は関係ない」「自分の家は大丈夫」と思ってしまうことがあります。しかし、近所の交差点など、身近な場所で冠水が起こっているといった情報があれば、「いよいよまずいんじゃないか」と危機感を感じやすくなります。これにより、逃げ遅れる人を無くしたり、被害の極小化を実現したりすることができると考えています。

リアルタイムハザードマップ開発の背景は、どのようなものでしょうか?

井出豪雨災害が広域化・激甚化しつつある中で、水災被害を極小化していくためには、災害の発生をいち早く検知し、早期に減災に向けた対応を取る必要があります。しかしながら、浸水の危険がある地域は、日本全国至るところに存在します。そのような場所すべてに発災を検知するセンサを新規に設置し、監視していくことは、コストと時間の面で現実的ではありません。そこで、街中に設置されている防犯カメラ等を活用できれば、比較的安価でスピーディに全国を網羅する災害監視体制が構築できるのではないかと考えました。具体的には、「ここだけは守らないとならない」という重要箇所にはセンサを配置し、それ以外の箇所には、SNSやカメラ映像によって地域の災害発生状況を面的に把握するという使い分けです。

応用地質株式会社 サービス開発本部 事業開発センター マネージャー 堀越 満

リアルタイムハザードマップだからできることは?

リアルタイムハザードマップは実際にはどのようなシーンで活用されるのでしょうか?

井出特に内水氾濫への災害対応に有効に活用できると考えられます。例えば、自治体であれば、街中に水が溢れてきたことを早期に、かつ網羅的に把握できるため、首長が避難指示や水防活動の開始の判断を的確・迅速にできるようになります。

堀越民間企業であれば、早期に従業員等の安全や資産を守る対応を取ることができます。防水板の設置や防水扉の閉扉、機材を水の来ない建物の上階に移動するなど、事業継続のために、いつ、何をすべきかという判断に役立てることもできます。複数拠点で事業展開する企業などでは、各拠点の周辺が今どのような状況になっているか、本社の防災担当部署で網羅的に把握することができます。

また、洪水被害では、夜間に急激に河川の水が溢れ、逃げる間もなく家屋が浸水してしまうこともありますが、センサやカメラは人とは異なり、夜間も休むことはありません。昼夜の別なく常に監視を続け、適時に危険情報を伝達してくれるという利点もあります。

井出その他、被災後に自治体の罹災証明を取得する際や、損害保険などの査定の際に、浸水した水位の高さの情報が必要になります。このようなシーンでも、本サービスを有効に活用できるのではないかと考えています。

私たち一般市民は、リアルタイムハザードマップによって具体的にどのようにメリットが受けられるのでしょうか?

井出リアルタイムハザードマップが発信した情報を使うことで、スマホやインターネット、テレビなどで、身近でこんな危険な現象が起きているということをリアルタイムで知ることができるようになると思います。その上で、命を守るために、今、どういう行動を取らなければいけないかという判断を的確に行うことができるようになります。ただし、リアルタイムハザードマップの情報を伝える手段については、様々な規制などもあり、今はまだ検討段階です。個人に直接伝えるのか、自治体や気象予報会社を通じて伝えるのか、様々な発信の方法があり、現時点でこれというものは確定していません。

※内水氾濫:市街地などに集中的に大雨が降り、下水道や排水路が水を排水しきれなくなり、雨水が溢れ出して、道路や土地、建物などを水浸しにすること。

分科会での活動について

「リアルタイムハザードマップ」分科会には、応用地質の他に、セコム株式会社、株式会社パスコ、東京海上日動火災保険株式会社が参画しています。この4社による協働の役割分担を教えてください。

堀越今回のリアルタイムハザードマップの大きな特徴の1つは、防犯カメラを活用することですが、その防犯カメラに関する技術やノウハウをもつ企業がセコムです。一方、パスコは衛星画像や航空測量等のデータを解析・分析するのが得意な企業で、今回はAIによる映像解析を担当しています。当社は、今回のプロジェクトでは防災IoTセンサを担当しています。そして、今後、実際にサービスを展開していく上では、東京海上日動火災保険が保有する過去の被災データや知見、チャネル等が重要な役割を果たすと思います。

防災科学技術研究所・大型降雨実験施設での実証試験の様子1
防災科学技術研究所・大型降雨実験施設での実証試験の様子2

実際に協働する中で実感しているメリットはありましたか?

井出テーマに対するアイデア出しや、研究開発のプロセス等の議論において、自社の視点以外の様々な視点での意見交換ができるメリットを感じています。普段は活躍している市場が異なる企業が一堂に会し、協業することで、1社だけでは見えていなかったことが見えてくるということがあり、サービスを開発する上で非常に多角的な視点を取り入れることができます。また、1社でプロジェクトを進めていく場合に比べ、より計画的で、進捗のスピードが上がります。さらには、研究開発の過程で使用したい外部の実験設備などを借用する際に、4社いずれかの繋がりを活用して計画をスムーズに進めることができるなど、4社の保有する様々なケイパビリティを活用できるのも大きなメリットです。

逆に、協働する中で苦労することはありますか?

井出苦労ではありませんが、すべて4社で合意してプロジェクトを進めて行く必要があるため、小さなことでも、一つひとつ丁寧に説明や情報共有を行い、認識を合わせた上で、各社の意思を確認して進めています。あとは、各社とも非常に忙しい方に参加頂いているため、打合せや作業の日程調整に苦労することくらいでしょうか。

最後に、今後のプロジェクトの予定や展望をお聞かせください。

井出今年の5月に防災科学技術研究所の大型降雨施設で実証実験を行い、技術的にも非常に良い成果が出ました。この秋からは、千葉県茂原市等にご協力頂き、実際の街中に設置したカメラ映像をAI解析して、冠水や浸水が発生した際に市の担当者にアラートを出す機能の実証実験を開始しました。今回の実証実験では技術的な検証だけでなく、発災時の自治体のオペレーションにどのようにリアルタイムハザードマップを組み入れるか等、より実践的な検証を行っていきます。併せて、協力いただいた自治体のご意見を頂き、サービス化に向けてさらに開発を前進させたいと考えています。

今後も国内の水害は増加すると考えられています。特に日本では、水災以外にも地震や土砂災害など、様々な自然災害の脅威に晒されています。一方、このような自然災害の増加に対し、国や自治体による防災の取組みだけでは限界があります。そのような社会の中で、COREのように多様な業界の企業・団体がパートナーシップを組んで、参画法人が持つ技術やデータを活用して行う防災・減災事業の共創活動は、災害に立ち向かうために非常に期待ができる新たな取り組みだと思っています。また、開発していくべきサービスは、防災だけに特化するのではなく、日常のサービスの延長または一部として位置づけ、サービス内容やコスト負担を考えて行く必要もあります。当然、このようなサービスの開発は当社1社では成し得ません。

これまでの活動を通して、様々な自然災害に関する当社の知見や技術と、様々な企業のリソースを掛け合わせて起こる化学反応から、日本の未来を守る新たな防災サービスが誕生することも夢ではないと考えています。今後も、外に目を向けて様々な企業と交流し、色々な方々と一緒に防災を考えて行きたいと思います。

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