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インタビュー

応用地質のプロフェッショナルVol.4 ~恐ろしい大地震後の大規模火災延焼予測のエキスパート 佐々木 克憲~

2021.12.09
地震防災事業部 (現:防災・減災事業部) 防災・減災技術部 佐々木 克憲氏

都市部での大地震で懸念される大規模火災。応用地質では、提供サービスの1つである地震被害想定調査の中で、火災延焼とその被害予測のためのシミュレーションを実施しています。今回は、専門チームの中心である地震防災事業部 (現:防災・減災事業部) 防災・減災技術部の佐々木克憲氏にお話を伺いました。

大地震後の同時多発火災の延焼を予測

火災延焼シミュレーションとはどのようなものですか?

実際の街並みをPC上で再現し、風向、風速、出火件数、建物構造など、さまざまな条件を組み合わせて、ケースごとに火災の燃え広がり方を建物1棟単位で予測し、シミュレーションしていく技術です。延焼していく様子は時系列でマップ上に表示されていきます。

火災延焼シミュレーションはどのようなことに役に立つのでしょうか?

巨大地震により同時多発的に火災が発生すると、都市部など家屋が密集した地域では大規模火災に発展する危険性があります。地域ごとの火災延焼のリスクをあらかじめ把握しておくことは、自治体の防災計画などを策定する上で不可欠なことです。

また近年は、消防署と消防車両、消防水利の適正な配置など、消防体制の充実が図られてきた結果、都市の消防力が向上し、大規模な火災の発生数が大幅に減少した半面、そのような大規模火災を経験した消防士の数も少なくなっています。このため火災延焼シミュレーションは、大規模火災の模擬訓練や消防戦術を考える上でも役立てられています。

巨大地震の後は、大きな火災が発生するリスクが高いのですか?

基本的に大きな地震が発生すると火災は必ず起きます。大きな被害が発生した最近の地震で言えば、熊本地震や大阪府北部地震でも火災は発生しています。過去の3つの大きな震災 (関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災) では、いずれも大規模な火災が発生し、発生状況に違いはあるものの、それぞれ大きな被害をもたらしています。大規模火災は、消防と住民の対応のそれぞれでキャパシティを超えてしまうと発生しやすくなります。

地震後の火災に共通する特徴はありますか?

都市直下型の地震で危惧されるのは、複数の場所で同時に火災が発生する"同時多発火災"です。これは阪神・淡路大震災を契機にクローズアップされるようになりました。阪神・淡路大震災では、神戸市内で実に175件もの火災が同時に発生しました。また、地震による断水も起こっています。特に長田区内では、地震直後に少なくとも10ヵ所を越えるエリアで同時に火災が発生し、消防車両の数が追い付かなかったと同時に断水により放水のための水源も不足したため、消防の対応能力を超えた結果、火災が燃え広がる事態に陥りました。

確かに、当時のニュース映像では、建物がひしめく市街地に火災による煙がいくつも立ち上っている様子が映し出されていました。

国土の狭い日本では、建物が密集して存在する「密集市街地」が多く存在しています。このような密集市街地では、古い木造家屋が多く存在しているという特徴があり、防災上の大きな課題となっています。当然、火災が発生すれば燃え広がりやすく、道路も狭く込み入っているため、避難もしづらいですし、消防車両も火災現場にアクセスしづらくなります。

大地震後に密集市街地で同時多発火災が発生すると大規模火災となる危険性が高い。

平常時の消防分野にも活かされる

地質・地盤のエキスパート企業である応用地質に、火災延焼のシミュレーションを行う火災の専門チームがあるのは何故でしょうか?

厳密には、火災延焼シミュレーションの専門チームではなく、私のチームはあくまで地震被害想定調査を主として行う部署にあり、その中で火災についても対応しています。

応用地質という地質・地盤に強い会社が地震被害想定調査を手掛けるようになったのは、地震の伝わり方や揺れの強さは地盤の性質や構造に大きな関係があり、会社の強みを活かすことが出来たからです。場所によって地震の揺れの違いがわかれば、そこに建っている建物や構造物にどのような被害が出るのかもわかります。そこから、当社の中に地震被害想定調査を行う部署ができ、地震被害想定調査を行う中で、火災による被害を分析する技術も培われ、現在の組織の姿になっています。

最初に火災延焼シミュレーションを手掛けたのはいつ頃ですか?

今から20年以上前です。阪神・淡路大震災の後に、国の研究機関である消防研究所 (現在の消防研究センター) より火災延焼シミュレーションの業務を受注したのが始まりです。その後、東京消防庁での火災延焼シミュレーションも当社で受注させていただいたのをはじめ、多くの実績を重ねてきた結果、今では国内随一の実績と知見を保有するようになり、当社の強みの1つになっています。

火災延焼シミュレーションは地震後の火災が対象なのでしょうか?

ひとたび火災が発生すると、その燃え広がり方は地震後でも平常時でも違いはありません。ですので、平常時に火災が発生した時の延焼予測も行っています。

地震時以外の火災を対象とした、消防分野からの業務依頼もあるということですね?

消防分野では、当社は消防管制システム内に延焼シミュレーションを組み込む仕事などもしています。消防管制システムは、火災発生の情報が入ると地図上に火災現場を表示して指令を出すシステムですが、そこに延焼シミュレーションを組み込んで、1時間後にはどれくらい燃え広がる可能性があるかといった予測情報機能などに活用いただいています。

火災延焼シミュレーションはこう作る

火災延焼シミュレーションは、どのように作成するのでしょうか?

コンピューターの地図上に建物の並びを一棟一棟再現し、建物と建物の間を最短の線で結ぶ「延焼経路のデータベース」というものを作成します。各建物には、その構造によって延焼速度を計算する式が組み込まれます。ある建物が着火して燃え尽きる時間より、その火が隣の建物へ燃え移る時間の方が短ければ延焼が広がります。それを順番に時系列で追跡して火災がどう広がっていくかを計算するという仕組みです。

通常はどれくらいの範囲のものを作成するのでしょうか?

消防管轄のものは市町村単位です。自治体の地震被害想定調査で一番広いのは都道府県レベルで、県全体になると建物の数では約300万棟のものを作成したことがあります。

火災延焼シミュレーションは何名のスタッフが関わっているのですか?

部署には私を含めて8人の社員がいます。その中で案件ごとにチームを組んで対応します。火災に係る業務の時は、私が中心になってチームを編成しています。

実際のシミュレーション画面の様子

現実味のある対策につなげることが大切

火災延焼シミュレーションを見た方々のどのような反応が印象に残っていますか?

私たちが作成したシミュレーションは自治体の防災計画などに活かされるので、一般の方々が目にすることはほとんどありません。その中で、数少ない例ですが、とある自治会で、消防士さんによる住民への防災講話に同席した際に、消防士さんが「自治会長さんのお家から燃やしましょう」と言ってシミュレーションを実演したところ、参加社から「ああ~、○○さんのウチまで燃えちゃった!」とリアリティのある反応が返ってきました。実体験に近い形で伝えることの重要さを実感した良い経験となりました。

火災延焼シミュレーションを作成する上で大切なことはなんでしょうか?

シミュレーションでできることは予測でしかありません。大切なことは、それをいかに現場の方々、自治体、消防、住民の方々に伝え、現実味のある対策につなげることができるかということです。そのためには、対策のためにシミュレーションで様々なパターンを分析し、地域にとって無駄がなく、かつ、付加価値の高いコンサルティングをしていきたいと思っています。シミュレーションは、そのための有効なツールとして使えるため、必要な技術はどんどん吸収して発展させていこうと考えています。

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