目からウロコな防災メディア防災・減災のススメ

インタビュー

整備された街並みを土砂が襲う!!近年増加する"都市型斜面災害"とは?〈後編〉

2022.06.09

豪雨による洪水や土砂災害が頻発化する中、近年増えてきているのが都市型の斜面災害です。2回にわたる連載の後編となる今回は、都市型斜面災害のリスクを調査する方法や防災対策について、前編に引き続き、専門家への取材を軸にお伝えしていきます。

都市型斜面災害リスクがあるのはどんなところか?

前編では、都市型斜面災害が多発している実態について見てきました。

その背景には、気候変動等の影響により、以前よりも短時間豪雨の発生頻度が増加したこと、それにより、排水しきれずに溢れた雨水が宅地化された台地の縁辺部斜面にたびたび流入するようになったこと、斜面など土構造物の管理不足により老朽化等が進行したこと、などが挙げられます。

後編は、都市型斜面災害のリスクが高い場所の特徴や、リスクの調査方法、対策等について、引き続き、応用地質の流域・砂防事業部 (現:防災・インフラ事業部) の矢部満氏にお話を伺いながらお伝えしていきたいと思います。

流域・砂防事業部 (現:防災・インフラ事業部) 矢部 満 上級専門職

具体的にどのような場所で都市型斜面災害が起こりやすいのでしょうか? 例えば、都内でもそのような場所はあるのでしょうか?

丘陵地に形成された住宅街のうち台地際 (縁辺部) の斜面で、前編で事例として挙げた千葉や京都のような特徴を持った場所は、土砂災害リスクが高いといえます。そのような斜面を含めて、都市域の台地縁辺部の斜面状態をまとめると【表1】のとおりになります。【表1】のうち自然状態の斜面が千葉の例、法制度に準拠しない対策斜面が京都の例に該当します。この2つの斜面は、同じく【表1】にある法制度に準拠した対策斜面に比べ、土砂災害リスクが高くなります。

【表1】都市域の台地縁辺部の斜面状態
斜面状態 自然状態 (基本、樹木が被覆) 斜面対策済み
法制度に準拠しない対策 法制度に準拠した対策
代表的外観
状況 開発時に自然斜面を保存。(切土斜面で植樹したケースも) 開発後は多くの場合、ほぼ無管理。 開発時の擁壁の上に無許可で擁壁を増築。擁壁は法律が定める工法以外で構築し、多くの場合、維持管理もない。 急傾斜地の崩壊や宅地造成に関する法律に従った工法で対策。
土砂災害
リスク程度

高い

高い

低い

なお、ここでいう法制度とは、昭和44年に制定された「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」を指します。また、同じように急傾斜での土砂災害を防止するための法律として、「土砂災害警戒区域等における土砂災害対策の推進に関する法律 (土砂災害防止法)」(平成13年4月1日施行)があります。

それぞれの法律により、「急傾斜地崩壊危険区域」と「土砂災害 (特別) 警戒区域」が定められています。整理すると以下の【表2】や【図1】の通りになります。

【表2】急傾斜地に関する区域のちがい
区域名 急傾斜地崩壊危険区域 土砂災害 (特別) 警戒区域
根拠法 「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」
(昭和44年7月1日)
「土砂災害警戒区域等における土砂災害対策の推進に関する法律」
(平成13年4月1日施行)
目的
  • ハード対策
  • 区域内の一定の行為制限
  • 土砂災害のおそれのある箇所の周知
  • 警戒避難体制の整備による土砂災害からの住民の生命及び身体の保護
  • 危険箇所への新規住宅等の立地抑制
義務・制限
  • 土地の掘削、立木の伐採等、土砂災害を誘発する行為の制限など

【土砂災害特別警戒区域内】

  • 特定開発行為に対する許可制
  • 建築物の構造規制、移転勧告

【土砂災害警戒区域内】

  • 宅地建物取引業者は、不動産取引時の重要事項説明
  • 要配慮者利用施設管理者は、避難確保計画の作成、避難訓練の実施
【図1】急傾斜地の指定区域の地形基準

急傾斜地崩壊危険区域は、土砂災害の恐れのある危険な急傾斜地に防災対策工事を施したり、その場所で土砂災害を誘発する行為等を制限したりすることを目的に設定されるのに対し、土砂災害 (特別) 警戒区域は、急傾斜地が崩壊することで影響を受ける範囲の住民に対し危険を周知するなどのソフト対策がメインで設定されます。なお、この2つの区域は重なって設定されることもあります。

以下の東京都建設局の公表資料【表3】によれば、土砂災害 (特別) 警戒区域の数は11,321箇所もあります。ただし、この中には島嶼部といった山間部も含まれているため、"都市型"には含まれないエリアも入っていると思われます。また、急傾斜地崩壊区域には59箇所が指定されています。土砂災害 (特別) 警戒区域に指定されていても、急傾斜地崩壊危険区域に指定されて、すでに法制度に準拠した対策工事が施されていれば、斜面災害の危険は低くなります。それでも全体としては非常に多くの危険なエリアがあることがわかると思います。

【表3】東京都の急傾斜地に関する指定箇所数
区域名 土砂災害 (特別) 警戒区域
(急傾斜地の崩壊)
急傾斜地崩壊危険区域
箇所数 11,321箇所
(平成30年10月5日現在)
59箇所
(平成30年7月時点)

では、23区内ではどれだけ土砂災害 (特別) 警戒区域があるのでしょうか。東京都建設局の公表データ【表4】によれば、都市域である23区のうち台地部の区の土砂災害 (特別) 警戒区域総数は1,000です (令和4年2月8日現在、他区市町との重複分含む)。多摩地域にも丘陵地に市街地が広がるエリアが数多くあることを考えると、都下ではここで示したような都市型の土砂災害リスクの高い箇所が数千箇所はあるものと推察されます。

【表4】東京都区部の土砂災害警戒区域の指定箇所数
区名 累計区域指定箇所数
土砂災害警戒区域 そのうち特別警戒区域
台地部 板橋区 149 117
大田区 97 60
北区 95 71
品川区 50 38
渋谷区 11 9
新宿区 55 38
杉並区 7 6
世田谷区 100 79
千代田区 41 30
豊島区 21 10
中野区 20 10
練馬区 15 11
文京区 106 64
港区 208 141
目黒区 25 18
総数 1,000 702
低地部 足立区 0 0
荒川区 7 6
江戸川区 0 0
葛飾区 0 0
江東区 0 0
墨田区 0 0
台東区 2 1
中央区 0 0
総数 9 7

都市型斜面リスクに備えるには?

都市部にも非常に多くの土砂災害リスクのある場所があるということですね。では、このような土地の所有者は、今後どのように対策したら良いのでしょうか?

2年ほど前に神奈川県逗子市のマンション敷地の斜面が突然崩落し、女子高校生が亡くなるという痛ましい事故がありました。この事故では、マンションを手がけた不動産開発会社や管理会社による適切な処置ができていなかったことが問題として指摘されました。

この崩落事故は、豪雨が直接の誘因ではありませんでしたが、急傾斜地を保有する自治体や事業者は、同じようなリスクを潜在的に抱えている可能性もあると言えます。

このため、危険な斜面を保有する自治体や事業者は、当社のような斜面災害に詳しい専門家に依頼し、現地確認を含めた調査をしておくべきかと思います。現地調査では、周辺住民に対して直ちに影響があるかないかの観点で、対策の優先度や【表1】に示すような法律に準拠した対策工法についても検討します。

自分の家が土砂災害の危険地域にあるかどうかを調べるためにはどうしたら良いのでしょうか?

まず、お住いの自治体が公表しているハザードマップで、自宅周辺が土砂災害警戒区域等の指定区域となっているかどうかを調べてください。そして、【表1】のどのタイプに当てはまるか確認してみてください。その結果、【表1】の2つのケース、"自然状態"や"法制度に準拠しない斜面対策 (石垣や複数の擁壁がひな壇状になっている)"に当てはまる場合には、ここで説明した都市型の斜面災害リスクがあるといえます。

応用地質の都市型斜面リスクソリューション

都市型斜面リスクに対応した応用地質のサービスにはどんなものがありますか?

都市型斜面リスクに関して、当社では、大きく「机上調査」、「現地調査」、「シミュレーション」、「モニタリング」の4つのサービスを提供しています。以下、各サービスのポイントを交えてご説明します。

机上調査

まずは、都市型斜面リスクの可能性を知りたいというお客様向けのサービスです。具体的には、対象地について、地形・地質状況、土砂災害警戒区域指定状況、土地利用状況、既存の斜面対策の状況、土地開発履歴、周辺の過去の土砂災害履歴などについて、行政公表資料、空中写真、地形図などから把握します。それらの結果と当社で保有する類似の都市型斜面の土砂災害の記録と比較し、対象地での今後の土砂災害のリスクについて専門的知見から判定し、レポートとして提供します。

現地調査

机上調査においてリスクの可能性が指摘された場所に対して、より詳細に危険性の診断を行います。すなわち、現地調査によって、対象地の土砂災害リスクの定量化 (土砂災害の規模、周辺に与える影響の程度など) を行います。

具体的には、現地斜面の状態 (侵食や亀裂の有無や植生など) を、目視点検や簡易貫入試験、物理探査といった専門的な手法により調査し、崩壊危険性のある脆弱な範囲を特定します。また、台地部の雨水排水施設の状況などを点検した上で、過去の大雨等による斜面への雨水流入の状況のチェックなどを行います。

調査結果を踏まえ、想定される崩壊範囲・土砂量、影響範囲を明らかにするとともに、具体的な対策工事の方法も提案します。急傾斜地の崩壊の関連法令に沿って、都市型斜面リスクを考慮した費用対効果の高い各種対策工を提案します。

シミュレーション

現地調査を基に対象斜面を数値モデル化し、土砂災害をコンピュータ上で再現するものです。気候変動が進行する中で、将来発生が予想される豪雨の量を入力データとして数値計算し、対象地域における斜面崩壊やその影響範囲を予測します。

これらの結果はアニメーションを用いて可視化することで、都市型土砂災害がどのように発生し、どのように危険なのかが直感的に理解できますので、周辺住民とのリスクコミュニケーションにも有効なサービスになります。

斜面崩壊の3Dシミュレーション例

モニタリング

気候変動による集中豪雨の頻発化により、千葉や京都の事例のような土砂災害がさらに増加していく可能性があります。モニタリングは、このような土砂災害につながる斜面の動きを監視するものです。当社のハザードマッピングセンサ (クリノポール) は、0.001°という高精度の分解能で地盤のごくわずかな変動でも正確に捉え、危険時には速やかに自治体職員などにアラートを発信することで、早期の警戒・避難行動に繋げる画期的なシステムです。また、モニタリング結果は、早期にハード対策を行うべき斜面の選定や優先度の決定にも活用することが出来ます。

IoT傾斜センサ「クリノポール」
インタビュー記事