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インタビュー

応用地質のプロフェッショナルVol.3
~原発事故の放射線モニタリングでも活躍 空中から地下を知る“空中物理探査” 結城洋一~

2021.00.00
メンテナンス事業部 技術部 技術参与 結城洋一氏

ヘリコプターなどの航空機やドローンを使って空中から地下の様子を探る空中物理探査。応用地質では、この技術を用いて地質調査や福島第一原発事故後の放射能モニタリング調査などを行っています。そのエキスパートである結城洋一氏にお話を伺いました。

地質リスクを調べる“空中物理探査”

空中から地質について調べる空中物理探査という方法があると聞きました。これは、どのような探査方法なのでしょうか?

物理探査とは、地下にある物質の物理的、化学的な性質について、物理現象を利用して非破壊で調べる調査方法です。例えば、電磁探査は、電磁波を地中に向けて発信し、その電磁誘導現象を測定・解析することで、地質構造や地中内部の断層、地下水の存在などを調べる技術のことです。この物理探査を飛行機やヘリコプター、ドローンなど各種の空中探査機から行うのが空中物理探査です。

なぜ、空中から物理探査を行うのですか?

対象エリアが広範囲の場合、地上での調査は大変非効率なものになります。このため、空中物理探査が行われます。空中物理探査が必要となるのは、例えば、距離が何十キロにも渡る道路建設計画地での概略地質調査や火山全体の山体構造調査、広いエリアから地下資源のある場所を絞り込む調査、広範な放射能汚染状況の調査などがあります。また、立ち入り禁止区域など、地上での調査が不可能な場合にも空中物理探査が行われます。

具体的にはどんな方法で空中物理探査が行われていますか?

地質調査でいちばん多く採られているのは空中電磁探査という方法です。これは、ヘリコプターなどに吊り下げた発信器から電磁波を地下に向けて発信し、地下で発生した誘導磁場を同じヘリコプターに吊り下げた受信器で測定する方法です。電磁波の発信を地上に敷設したケーブルで行い、空中のヘリコプターやドローンで受信するような方法もあります。

防災分野でも使われることはあるのですか?

断層や地すべりの調査に使われることがあります。断層調査では、発電所など重要構造物の地下に地震を引き起こす活断層があると危険ですので、その有無について調べます。地すべりの調査では、主に深層崩壊と呼ばれる、地下10メートルから50メートルくらいの深さで斜面が大きく崩壊する可能性がある場合に用いられます。また、道路建設予定地の調査でも、計画地内に断層破砕帯や地すべりなどがあるとトンネルや法面の建設工事の際に支障がありますので、リスクを未然に防ぐ意味で、空中物理探査を使って地質リスクを洗い出すことがあります。

これまでの印象深い業務ではどんなものがありましたか?

国土交通省からの委託で、富士山の調査をしたことがあります。これは、火山灰などが堆積した緩い地質が大雨によって崩壊すると大変危険なので、そのような崩壊危険箇所を探査することを主目的に行ったものですが、富士山の山体全体の調査となるため、規模が非常に大きいものでした。調査は2年がかりで行われましたが、空中電磁探査を行うための地上発信用のケーブルを敷設するだけでも、富士山の「大沢崩れ」と呼ばれる大きな谷から富士吉田の登山道まで、何十kmにも及ぶ距離になり、大変な作業でした。

P-THEM (ピーテム)
タイムドメイン空中電磁探査法
GREATEM (グレアテム)
地表ソース型タイムドメイン空中電磁探査

福島原発事故で放射能モニタリング調査

東日本大震災後に、放射能のモニタリング調査を実施したと聞いています。この調査は、どのようなものでしたか?

2011年の発災直後より、空から放射能の拡散状況をモニタリングしました。セシウム134・137の空間線量率を、発生源の原子力発電所の周辺エリアは無人ヘリコプターで、その外側から80km圏内及び圏外は有人ヘリコプターで測定しました。この調査は現在も継続中で、除染状況などの経過観察として行っています。原子力機構からの委託を受けて調査を行っています。

どういった経緯で業務が委託されたのですか?

事故直後、日本政府は放射能を空中から探査する技術を保有していなかったため、米国から装置と技術を借りてモニタリングを始めました。ただ、モニタリングすべきエリアが大変広域で、それでは不足しましたので、国内において民間で唯一、装置と技術を持っていた応用地質に調査への協力が要請されたのです。

発災後の状況はどのようなものでしたか?

無人ヘリの探査では、事故が発生した発電所の5キロ圏内に毎日行っていました。建屋のすぐ傍まで行って調査もしますが、一日の被曝量には制限があるため、線量計を肌身離さず身につけていました。

それから10年が経ち放射線量は下がりましたか?

除染作業の進展や、放射性物質の自然減衰により、全体として放射線量は下がりました。ただ、もともと人が近寄らないような場所で、除染の対象区域外となっているエリアや、排水路の泥が溜まっているようなところに、ホットスポットと呼ばれる放射線量の高い場所が残っていることがあります。

放射線のモニタリング調査の経験で今に活かされている事はありますか?

測定・解析技術や、学んだこと、経験したことを他の業務にフィードバックできました。例えば、放射能の線量は元来ばらつきが大きいものですが、測定結果を可視化して地図上にマッピングするといった作業の際に、ばらつきによる矛盾が起こらないよう統計的な手法を用いて処理する技術などを学んだことで、マッピング技術を洗練させることができました。

放射能モニタリング調査にあたる有人ヘリコプター
無人ヘリコプターによる放射能モニタリング調査
マニュアル飛行型と自律飛行型があり、上は、マニュアル飛行型の探査機
図) 日本全国の地表面から1m高さの空間線量率分布 (平成24年5月31日の値に減衰補正)
(原子力規制委員会放射線モニタリング情報 2014を修正)

日本で唯一の技術が役立てられたわけ

結城さんは、どのような経緯で、空中物理探査に携わるようになったのでしょうか?

私は、元々は、ヘリコプターの運航会社にいたのです。その会社の空中探査技術研究所の管理部門を担当したのがきっかけです。その頃は、空中放射能探査で温泉の調査、空中電磁探査で大型構造物調査などをしていました。温泉調査では、地盤の亀裂から上がってくる地下の放射線を調べていたのです。当時、同社は、日本で唯一、空中からの放射線探査システムを持つ会社でした。

応用地質に来られたのはどういった経緯だったのでしょうか?

同社は地質調査を専門とする会社ではなかったので、本業ではない探査技術の専門性を高めて行く上では限界もあり、空中探査に関する事業から撤退することとなりました。そうなると空中探査に関する技術が日本から失われる可能性がありましたので、応用地質は、日本に必要であるこの技術を残して行くべきだと考え同社から空中物理探査部門を買収することを決定しました。そして、その際に私もこちらに来ることになりました。それが2000年のことでした。この時に維持された技術が2011年の福島第一原発の事故後に役に立ったのです。

安全面へのこだわりで“事故ゼロ”を継続中

空中物理探査でやりがいを感じるのはどんな時ですか?

やはり、地質構造が解明できて調査結果が評価されることが嬉しいですね。非常にデリケートな技術のため、地盤によっては明確な結果が得られないこともあります。非常に精度の高い調査結果が得られたときは、良かったなと思いますし達成感があります。ことのほか嬉しいのは、実は、応用地質の社員からの褒め言葉なのです。応用地質は日本で一番地質に詳しく、厳しい目をもった専門家の集団なので、そのような厳しい目を持った専門家の人たちに、今回は「よく解明できたね」と言ってもらえるとありがたいです。

業務において、こだわっていることは何ですか?

安全には手を抜かないということです。ヘリコプターなどを扱う業務は事故がつきものですが、私の唯一の自慢は、一度も航空機事故を起こしていないということです。ヘリそのものの安全確保は運航者を信頼するしかありませんが、私は全体の安全管理に努めています。例えば、高度計は2つ備えて1つは常にディスプレイに表示したり、運航ルートは、必ず事前に下調べをして、高架線などでヘリが引っかかって落ちたりすることがないようにしたり、ヘリが着陸する場所も広くて安全に降りられる場所を確保したりしています。

今後の展望を教えてください。

空中物理探査は特殊な技術です。応用地質は、この技術を、国のために保持して行くべきだと思います。そのための最大の課題は技術者の確保と養成です。空中物理探査は、現場が多くあるわけではないので養成の機会が少ないと言えますが、一方で、かなりの技術レベルを要します。機械も特殊なので、壊れたらすぐメーカーに出すというわけにいかず、自分たちで予備パーツを準備したりしています。そういう中で技術を継承して行くことに努めていかなければならないと考えています。

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