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インタビュー

重要性がますます高まるBCP 実効性のあるBCPとするには〈前編〉

2022.07.21

自然災害の活発化や感染症パンデミックなど、企業を取り巻くリスクが多様化・拡大する中で、事業継続計画(BCP)の重要性が改めて注目されています。そこで今回は、BCP策定のプロに登場いただき、BCPの現状と課題、実効性のある策定方法などについてお話を伺いました。

BCPを取り巻く状況は?

台風や豪雨災害が激甚化・頻発化し、また地震・火山活動も活発化するなど、近年、企業活動を取り巻く自然災害のリスクがますます高まりつつあります。自然災害以外にも、世界的な感染症拡大や紛争勃発による移動制限、物流の混乱など様々な問題が企業活動に深刻な影響を及ぼす中で、企業の事業継続計画(BCP)に対する重要性が改めて注目されるようになってきました。

各種の自然災害のメカニズムの調査やその対策のコンサルティングなど、「防災・減災事業」を手掛ける応用地質では、その専門性を活かし、これまで数多くの企業や組織のBCP策定を支援してきました。今回は、応用地質の中でBCPに関わるコンサルティング業務に専門的に従事されている防災・減災事業部の野口 礼人氏に、昨今のBCP策定の現状や課題等についてお話を伺いました。

応用地質株式会社 防災・減災事業部 野口 礼人

国は、これまでに「事業継続ガイドライン」を数回にわたって改訂するとともに、平成26年6月に閣議決定された「国土強靱化基本計画」においても企業のBCP策定目標を設定するなど、積極的に企業のBCP策定を強く後押しする政策を進めています。「令和元年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査(内閣府)」によれば、BCPの策定率は、大企業で68.4%、中小企業で34.4%ということでした。この調査結果を、どのように評価すべきでしょうか。

平成23年(2011年)に東日本大震災が起きた後は、BCPの策定率はかなり上昇し、約50%の大企業が策定済みという結果でした。しかしながら、それからさらに10年経った現時点でも、大企業の策定率は70%に達していない状況ですし、中小企業の策定率は、その半分という結果です。

もう少しこれを高くする必要があると思います。

また業種別に見ると、金融関係、情報通信関係の策定率が高いのですが、これは、事業内容から考えて、災害時に事業停止が許される時間が限られている(言い換えれば、すぐにでも業務を復旧する必要がある)業種であることを物語っています。それが、BCPの策定率の高さに現れているのですが、その他の業種でも、事業を長く止めることは、お客様に迷惑をかけるだけでなく、自社の損失(休業損失)につながりますので、その点を考慮して、BCPに取り組むことが必要ですね。

BCPを策定しただけで満足してはいけない

取り組みが進まないのは、企業側に問題があるからでしょうか?それとも、BCPという概念や策定作業などに、日本の企業風土の実態と合わない何らかの問題があるからでしょうか?

日本は自然災害がとても多い国で、災害に対する備えの重要性は企業も理解しているため、企業風土に合わないということはないと思います。むしろ、BCPが本来何を目的にしていて、それが企業経営にどのように役立つのかが十分理解されていないために、策定することが後回しにされたり、策定しても、実効性が伴わないまま単なるドキュメントとして放置されたりしているのではないでしょうか。

「BCP」と「防災マニュアル」の違い

昨今の大規模地震等で被災した企業などで、BCPがうまく機能しなかった、という記事を読んだことがありますが、なぜ機能しないということが起こるのでしょうか。

先の話の続きになりますが、これは「BCP」とは何かをきちんと理解しないで取り組んでいるところに、ひとつの原因があると思っています。

例えば、「BCP」と「防災マニュアル」の違いがわからず、「BCP」を「防災マニュアル」の別称のように考えているとしたら、機能しないBCPになってしまう可能性があります。

それは、どういうことでしょうか。

企業や団体の、災害対応は、2つのステップに分けられます。

最初のステップは「安全確保」、すなわち従業員の命を守る取組みで、これは「防災マニュアル」に記載していきます。

2番目のステップが「事業継続」で、このために策定するのが「BCP」というわけです。

BCPが機能するかどうかの実効性は、「最優先で継続、或いは早期に再開すべき中核事業、又は重要業務が、きちんと実施できるような手段・方法が確保できているか」で評価されます。もし、「災害時に優先して継続・再開すべき中核事業の具体的な業務遂行手段が明確になっているか?」という質問に「YES」と答えられない場合は、BCPに対する取り組み方を見直したほうが良いかもしれません。

逆に、BCPがうまく機能したおかげで、事業が早期に回復したり、企業評価を上げたりした事例にはどのようなものがありますか?

過去の国内の災害などでは、

  • グループ企業が応援に入る
  • 他地域の在庫を被災地に運ぶ
  • 生産を被災していない地域の工場に移す
  • 部品を他のルートから調達する

といった例があります。ただし、これらは単にBCPを策定しただけではなく、災害発生前の平常時から、業務の継続のために必要な代替手段などを想定し、BCPの発動に備えた訓練を行っていた結果だと思います。

どうすればそのような取組みができるのでしょうか。

簡単に言うと、「災害時に継続すべき業務に必要な資源のどこに問題が起きそうか?」を予め検討し、問題があれば普段からそれに対処方法を計画し、その実効性を確認しておくということです。これをせずに対応マニュアルを作成しているだけでは、災害時に必要な人・モノ・ライフライン等の資源が確保できず、そのためBCPが機能しなくなってしまいます。BCPを災害時に紐解く「マニュアル」だと誤解していると、このようなことが起きがちです。

実効性の高いBCPのポイントは?

上場企業などでは特に、自社でのBCP策定の取組みについて公表している事例が多いですが、実効性の高いBCPだとわかるポイントを教えてください。

訓練や、災害時の代替手段などを公表している場合がありますね。その中で、実効性の高いBCPだと判断されるポイントは次のようなことでしょうか。

  1. 最優先で継続・再開する事業(業務)を絞り込んでいるか
  2. その事業の目標復旧時間を、お客様に迷惑をかけない時間内に設定しているか
  3. その目標時間を確保する上で必要な資源についての問題点を把握しているか

また、BCPを策定しても、次のような観点で改善・ブラッシュアップしていくことがきちんと見込まれているかも重要です。

  1. 現状に問題点がある場合、それに対処するための、数年間のロードマップ(実施計画)を持っているか
  2. そのロードマップに沿って、普段から対応策を実施しているか
  3. つまり、策定したBCPを常に見直しながら、その問題点を認識しそのための対応を戦略的講じていくことも必要です。

    コーポレートガバナンスコードの改訂やTCFD提言に基づく情報開示など、企業のガバナンスに対する社会的要請がますます強まっていますが、このような動きとBCP策定の動きは連動するものと思いますか?

    企業がステークホルダー(利害関係者)に対して、今後直面するかもしれないリスクやそのための備えをしているかを公表することが必要になっているのだと思います。その意味では、「BCPを単に持っている」ことで済む時代は終わって、今は「実効性はあるか」つまり「災害時でも、事業は確実に継続できるか」が問われるようになっていると思います。

BCPは行政や地域でも策定されている

BCPは、企業だけが策定すべきものなのでしょうか?自治体など行政機関や地域での策定の取組みなどもあるのでしょうか?

BCPは、企業以外にも各種団体、行政機関、病院など でも策定されています。特に、事業(業務)の停止が、お客様(取引先、利用者等)の活動や生活・生命に甚大な影響を及ぼす機関では策定する必要性が高くなります。

また企業は、内部(社内)にある資源の対策はある程度できますが、外部(社外)から得ている資源(電気や水、道路など)の対策は簡単にはできないため、地域連携BCP等と称して、工業団地などのまとまりで協力しながら、こうした課題に対する取組みをしているところもあります。

ちなみに、当社は、こうした地域内連携の防災の取りくみを支援するために、防災関係の業務をしている他企業様と共に、一般社団法人DCM推進協議会を、2009年に設立し、各地域の商工会議所等と協力した活動を続けています。

後編では、BCP策定支援事業の成り立ちから現在までの流れや特徴、野口氏が現場で感じたことを中心に紹介します。

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