「地質」は土木のベース
興味のきっかけは会社訪問
応用地質に入社したきっかけはどのようなものでしたか?
大学ではトンネルを学ぶ研究室にいました。大学2年生の時に阪神・淡路大震災に遭い、その後に参加した被災度調査のボランティアで地下構造物には被害が少なかったことを知り、地下に興味を持ったことがきっかけでした。そのため就職活動ではトンネルに関係する仕事に就きたいと思い、ものづくりに興味があったこともあり、最初はゼネコンを希望しました。しかし、夢が叶わず、次にトンネル設計を考え、ゼミの教授に相談したところ、トンネル事業に力を入れている応用地質の役員の1人と教授が懇意だったため、受けてはどうかと勧められました。
勧められた時に応用地質のどんなところに興味を持ちましたか?
研究室の7歳上の先輩が入社していたので会社訪問し、働くところを見せてもらいました。その中で、ボーリング調査で採取したサンプルの分析に立ち会わせてもらいました。地面にまっすぐ穴を開けて引き上げた棒状の土や岩を観察し、これは何岩、これは何層と特定していくのです。土木出身の私には、あまりわからないことでしたが、複雑な地質構造を理解することが構造物を建設することに非常に深い意味を持つことを知りました。こうした経験から、土木工学のベースは地質学にあることを実感し、"受けるしかない"と思いました。
多い時で1ヶ月30本以上の点検
今の業務の内容を教えてください。
入社以来、トンネルメンテナンス事業に従事しています。トンネルの点検、調査、補修の設計、維持管理計画の策定支援を担当しています。担当業務だけでなく、自グループ (部門) のマネジメントや新技術の開発も行います。また、メンテナンス事業部 (現:防災・インフラ事業部) には全国にトンネル分野の担当がいて、私はそのリーダーも担当して、各エリアの担当者と連携して業務に携わっています。
どれくらいのペースでトンネルの点検を行っているのですか?
国道のトンネルで1ヶ月に最大35箇所の点検を実施したことがあります。1日で同時に5現場を受け持つ形で、各現場3班の体制で並行して業務を遂行しました。総指揮を担当した私は、現場作業から発注者との打ち合わせまで日々目まぐるしく奔走しました。努力の結果、その業務は予定工期よりも早く無事故で完遂し、その後、国土交通省の優良業務表彰もいただくことができました。
トンネルの点検作業はどのように行うのですか?
交通量の少ない夜間に車線の片側を通行規制して行うことが多くあります。専門の技能者が高所作業車の作業台に乗って天端 (トンネルの天井) 近くまで上がり、目で見て、ハンマーで叩いて調べます。異常箇所はチョークでマーキングし、その全てをスケッチした図面をもとに補修設計を実施します。
ハンマーで叩くと異常が分かるのですか?
点検は五感を使うものです。叩いた音の違いを聞き分けて調べます。新人には、まずこの作業を覚えさせます。時には私も一緒に聞いて五感の微妙な違いを補正しなければなりません。将来、管理技術者になるにはこうした作業内容を知っておくことが大切です。最近では、図面を起こす作業に3Dトンネルレーザー計測システムなどの新技術を活用することもありますが、点検作業そのものには熟練技術者による人の手 (判断) が欠かせないのです。

みかん箱のおばあちゃんが言ってくれた「ありがとう」
業務において言われて嬉しかった一言はありますか?
山間部の小さなトンネルで、交通規制をして地元の方にご不便をおかけしながら作業していた時に、みかん箱を背負ったおばあちゃんに一言「ありがとう」と言われた経験がありましたが、その時は嬉しかったです。発注者は行政であっても、ユーザーである地域住民にこそ目を向けなくてはと思っています。

悔しい失敗にはどんなことがありましたか?
お客様との打合せ時に、お客様の管理しているトンネルとは違うトンネルの名前を言ってしまい、間違えたことがありました。あまりに多くのトンネルを見過ぎて記憶が混乱してしまったのです。しかし、お客様にとってはどれくらい親身になっているかに関わることなので、名前を間違えるのは大変失礼に当たり、あってはならないことと反省したものです。またある時、上司から「トンネルを愛しなさい」と言われました。それは、管理されているお客様と同じ気持ち、またはそれ以上に真剣に取り組む必要があるという意味でした。毎年お世話になっている鉄道事業者様からの依頼においては、今ではそのお客様の誰よりも、そこで管理されているトンネルのことを理解していると自負しています。
そのほか、トンネルに関わる印象的な経験にはどんなことがありましたか?
冬期の通行止め期間中にどうしても傷んでしまう山間部のとあるトンネルがありました。ある時、お客様である自治体の担当者と2人で、状況を見に行くことになりました。道中は深い積雪で、スノーモービルで雪をかき分け、かき分け、やっとの思いでたどり着き、トンネルの中に入って見てみると、まるで「アナと雪の女王」の世界のようにトンネル内部が完全に凍り付いていました。トンネルは、コンクリートのひび割れ等の間に水分が入り、凍結すると、水分が膨張してコンクリートが破壊され、劣化します。そして、このような状況を繰り返すことで、トンネルはどうしても傷んでしまいます。この時は、凍結した状況をしっかりと確認できたことで、断熱材付きの補修方法を提案することができ、今ではきれいに補修されています。まだ駆け出しの頃ですが、非常に苦労して現場まで行った甲斐もあって、適切な提案ができたので、すごく印象的な出来事でした。
ご自身が手がけたトンネルには特別な思いがあるのではないですか?
補修する前のトンネルは排気ガスを浴びたりしてすごく汚れているんです。その中で作業をすることは、本当は好きではありません (笑)。でも、それがきれいになるのを見ることが好きです。自分が働いた成果が世の中に出ることが本当に嬉しいです。
トンネル、そして、道路を守っているのは自分たち
トンネルの保守は利用者の安全に関わる業務だと思います。その意味で、今まで最も印象に残っているお仕事にはどんなものがありますか?
新潟中越地震のトンネル被災状況調査です。地震によりコンクリートが崩落したトンネルを目の当たりにしました。その空間に立っていることすら生きた心地がしませんでした。もし、ここを通過していた車両がいたら...? 想像するのも恐ろしい状況でした。この地震が発生するまでは、比較的地震に強いと言われてきたトンネルが、多くの被災を受けたことは衝撃的な出来事でした。たとえ巨大地震であっても、被災の原因になってはいけません。日常の維持管理をしっかり行い、事前に対策を講じることで、被災を最小限にすることが重要だと思った瞬間でした。
安全なトンネルのために心がけていることはありますか?
一緒に仕事をする仲間には「『この道路を守っているのは私たちだ!』というプロ意識を持って欲しい」と常にお願いしています。プロとして妥協はしたくありませんし、妥協は不安全につながってしまうので現場作業時は非常に神経を使います。その私たちの取り組みそのものが利用者の安全に直結する点にやりがいを感じています。
これからの展望について教えてください。
今あるトンネルを安全に長寿命化させるには、国で定められた5年に1回の定期点検で適切なタイミングを見逃さず保守をすることです。しかし、トンネルは日本に1万1千本以上あり、インフラ点検の専門企業の数も限られていることから、これら膨大な数のトンネルを十分にケアしていくことは困難でもあります。このため私たちは、点検業務の効率化を図ることと同時に、地域の企業とも協業していくことが重要だと考えています。私たちが開発した効率化技術を地域の担い手企業に使っていただき、私たちと連携することで、高品質な点検・補修サービスを幅広く展開できるだけでなく、技術の普及や地域の雇用創出にもつながっていくと考えるからです。
- 応用地質プレスリリース「トンネル点検を効率化・高精度化するAIシステムを開発!」(2020年9月10日)
- 応用地質プレスリリース「道路トンネルなどインフラ構造物のコンクリート健全度をAI (人工知能) により自動判定するシステムを開発」(2019年7月11日)
協業、という点では、当社では、国内だけでなく海外企業とも連携していくことも検討しています。インフラの老朽化は、日本国内だけの問題ではありません。海外でも老朽化による事故などが頻繁に発生しています。当社では、日本で培ったインフラメンテナンスの技術を海外でも展開していきたいと考えています。その第一歩として現在、シンガポールの子会社と連携し、日本の点検技術を現地で活用していく取組みをはじめたところです。

- 関連リンク
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- 応用地質プレスリリース「トンネル点検を効率化・高精度化するAIシステムを開発!」(2020年9月10日)
- 応用地質プレスリリース「道路トンネルなどインフラ構造物のコンクリート健全度をAI (人工知能) により自動判定するシステムを開発」(2019年7月11日)