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コラム

道路陥没がなぜ起こるのか?

2021.05.31

報道が続き注目を集めた道路の陥没事故。陥没の種類や原因はさまざまであり、小規模な陥没は意外と多く発生しています。地下工事などに伴う大規模な陥没事故の多くは日本の複雑な地質が要因の一つとなっており、事故を未然に防ぐ技術として地盤3次元化技術が注目されています。

道路陥没の発生メカニズムはさまざま

ここのところ全国各地の市街地の幹線道路や住宅街で道路陥没が発生し、メディアで大きく取り上げられることが続きました。駅前の大通りにポッカリと大穴が口を開けた写真などに驚いた方も多いでしょう。これら大規模な陥没事故は、トンネルなどの地下掘削工事に伴って発生したケースが多いですが、その原因や発生メカニズムはさまざまです。なぜ、このような事故が起こるのでしょうか。

小規模な道路陥没は頻繁に発生している

トンネルなど地下掘削工事においては、通常、安全に工事を進めるために地質をきちんと調査した上で、その場所や地質に合った工法を選択して施工しています。しかし、実際に地質調査をしたとしても、本来目で見ることができない地下の状況を正確に把握することは、実は、かなり難しいことなのです。なぜなら、日本の地質は、場所によって非常に複雑だからです(この点については後に詳説します)。そのほか、大規模な陥没事故以外でも小規模なものは、日本では(世界ではもっとですが)、あちこちで日常的にかなり発生しています。これらの発生原因は、先程の地下掘削工事とは全く異なっており、下水道管などの地下埋設物が原因であったり、過去の防空壕跡が原因であったり、さまざまです。

日本ではどれくらい陥没が起こっているの?

全国ネットで報道されたような大規模な陥没事故例は、日本で発生している陥没事故全体で見れば、一般的なものではありません。私たちの身近なところでは、道路の下にある下水管路などの地下埋設物に起因する小規模な陥没が比較的頻繁に発生しています。国土交通省の資料によると、管路施設を原因とする道路陥没事故は、年々減少傾向にあるものの、令和の現在でも年間で3,000件※1も発生しています。また、管路以外を原因とするものも含めれば、年間で9,000件※2も発生しています。

埋設管などが老朽化すると、穴が開いたり、継ぎ目に隙間ができたりすることで、周囲の土砂が管内に吸い込まれ、その結果として管の周囲に空洞ができます。そして、空洞が大きくなると地盤が支えられなくなり、地上で陥没が起こります。日本の地下には、下水道管だけでも地球11周分以上に相当する合計46万キロメートルが埋まっており、そのうち老朽化したものは全国で10万カ所以上あると言われていますので、どこで陥没事故が起こっても不思議ではありません。

このような道路陥没の原因となる空洞を事前に見つけることが事故を未然に防ぐために重要であり、そのための調査方法として、電磁波レーダーを搭載した専用車による路面下空洞探査が行われています。

路面下空洞探査車
地中レーダー搭載車による路面下空洞の探査イメージ

日本の地盤が抱える特殊な事情

日本列島は、地殻を形成するプレートが4枚もぶつかり合う上に位置し、活発な地殻変動により山地が発達し、温帯多雨という気象条件により著しい浸食作用を受け、複雑で不安定な地形・地質によって形成されています。断層が少なく単調な地質構成の欧米と比べて、日本の地質構造は非常に複雑です。

日本と欧米の地質の違い。欧州や米国に比べて、日本の地質は非常に複雑なのがわかる
出典:全国地質調査業協会連合会「日本列島と欧米の地質」

このような「複雑な地質」という特徴があるため、日本では建設工事に先立って、地質調査を行うことが非常に重要になります。特に、地下掘削工事の際には、地質によって適切な掘削の方法や地盤の崩壊を防ぐ工法などを変えていく必要があるため、慎重かつ綿密な調査が求められます。しかしながら、それでも急な地質の変化があった場合には、それを見落としてしまう場合があります。また、地質調査の結果を評価するのも「人」なので、技術者の技量や経験により、地質の推定や判断に個人差が生じてしまう可能性もあります。このような地質の判断の難しさが、ときに工法選定の間違いや地盤の事故につながってしまうことがあるのです。

日本の地盤は複雑なため、地質調査をしても時に全体の地質構造を見誤ってしまうことがある

地盤事故を未然に防ぐために期待される地盤の3次元化技術

地盤の複雑な変化を見落とさないためには、ボーリング調査などを非常に沢山やればいいわけですが、地質調査にもお金がかかりますので、なかなかそうもいきません。また、都市部などでは、ビルや住宅、線路などの構造物が存在していると、地質調査したい場所であっても調査ができないことがしばしばあります。

そこで期待されるのが、地盤の3次元化技術です。

地盤の3次元化技術とは「地盤の中身を3次元的に可視化する地質調査技術」のことで、身近なものに例えるなら、病院で使うX線CTスキャンやMRIのような検査技術を大地に対して使うようなもの、といえばイメージしやすいでしょうか。これらの検査技術が体内を3次元で可視化して隠れた患部を見つけるように、地盤の3次元化技術は地盤内部の隠れたリスクを見つけやすくします。

3次元物理探査技術で可視化された地盤内部の画像例

MRIが磁力や電波、CTスキャンがX線などを使って体内を調べるのと同じで、地盤3次元化技術は電気や電磁波、微小な振動といった物理現象を利用して地盤内部の地層の構成などを調べ、また、その結果を3次元で可視化することができます。これにより、限られた数の地質調査だけではわからなかった急な地層の変化など複雑な地質構成でも、誰にでもわかりやすく見ることができるので、地下工事によって起こされる陥没事故も未然に防ぐことが期待されます。

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