OYOフェア2023

6つの社会課題ソリューション

6.観光防災への取り組み
~急速に回復するインバウンド市場のさらなる成長に向けて~

  • 防災・減災

コロナ禍での各種制限が緩和され、インバウンドを含め旅行需要が急速に回復しつつある一方、観光分野は、自然災害やパンデミック等の外的要因を受け易い産業構造を持っています。本コーナーでは、災害に強い観光地づくりに向けた様々な視点について考えていきます。また、持続可能な観光地づくりのための施策として、観光地型MaaSや内閣府「未来技術実装事業」を活用したグループの観光支援サービス事例についても紹介します。

1自然災害に強い観光地づくり
~持続可能な観光立国の復活と地方創生の実現に向けて~

自然災害と観光業

観光立国の実現はわが国の「成長戦略」の柱の1つであり、「地方創生」の要です。海外旅行客の増加はインバウンド消費を増やし日本経済を下支えしています。また観光業の発展は地域の幅広い業種に経済波及効果をもたらし、地域経済の活力にも貢献しています。

しかし、ひとたび自然災害が起これば、被災地を中心に広いエリアで観光事業に大きな影響を及ぼす恐れがあります。最近の事例として「令和5年奥能登地震」が挙げられます。2023年5月5日石川県能登地方を震源とした地震が発生し、石川県珠洲市で震度6強の揺れを観測しました。石川県によれば、5月19日までに石川県全体で約23,000件の宿泊キャンセルが発生し、その内訳は能登地域が全体の65%となる約15,000件であり、県内のその他の地域が約8,000件とされています。

観光分野は、経済の成長エンジンとしての期待値が高い一方、自然災害に対して非常に脆弱であることから、自然災害に強い観光業、観光地をいかにつくるかが大きな課題となっています。

自然災害により被害を受けた観光地の例 (熊本地震のケース)

直接被害を受けていない近隣県の観光地のほうが影響を受けることもある

下図は、2011年から熊本地震の直前2016年3月までの県別延べ宿泊数データを用いて予測式を構築し、分析した熊本県および大分県の宿泊者数のシミュレーションの結果です。熊本県では、地震が無かった場合 (赤点線) と実際の宿泊者数 (青実線) との間で大きな差は見られませんでした。大分県では、4月~6月は宿泊者数は大きく減少しましたが、7月以降に回復しています。「九州ふっこう割」による増加効果を差し引いても、7月から回復傾向 (緑点線) となっています。

一方、地震による直接的な被害の少なかった福岡県では、地震が無かった場合 (赤点線) に比べて実際の宿泊者数 (青実線) は発災後1年を通じて減少しました。長崎県も地震が無かった場合 (赤点線) に比べて実際の宿泊者数 (青実線) は発災後1年を通じて減少しました。統計分析の結果、地震の揺れや被害が大きかった熊本県や大分県よりも、被害が生じなかった福岡県や長崎県で、宿泊者数が大きく減少していることが分かりました。その背景には、政府による旅行支援策の程度や観光資源の違い、災害発生後の情報発信のあり方などがあったと考えられます。

詳しくは、以下の共創Labワーキングペーパー『熊本地震が九州各県の観光需要に与えた影響の定量分析』をご覧ください。

観光地の危機管理と観光業の更なる発展のために
~応用地質の観光防災サービス~

自然災害に強い観光業、観光地をつくるためには、観光地の危機管理も重要なカギとなります。災害に強い観光業、観光地を目指すためには、自然災害が発生しても、旅行者の安全が守られ、観光業ひいては地域経済の活力が維持されることが重要です。加えて、自地域だけでなく近隣県での災害による影響も含めた対応も今後考えていく必要があるでしょう。

当社では、観光事業者における外国人観光客や高齢者等の要配慮者への初動対応も含めた危機管理マニュアルの作成支援のほか、事業者の事業継続計画や地域防災計画の策定支援等の各種支援サービス、さらには災害関連の各種研究を通じて、災害に強い観光地づくりに貢献しています。2023年7月、共創LabはJTB総合研究所と共同で、災害に強い観光地づくりに関するシンポジウムを開催しました。議論から出てきたキーワードは「フェーズフリー:Phase free」です。すなわち災害時と平時の垣根を低くし、適切な災害対応へスムーズに移行することの重要性です。具体的な検討は始まったばかりですが、災害に強い観光地づくりに向けて今後も研究を続けていきます。

特集関東大震災から100年を迎えて
~関東大震災に学び、再来に備える~

関東地震再来の経済被害を推計し公表しました

今年で関東大震災から100年になります。その間、建築基準法の制定、地震観測網の整備、家計向け地震保険制度の整備など、ハード・ソフトの両面で地震に対する備えは各段に向上しました。一方、東京やその周辺地域の人口は大きく増加し、産業構造も変化しました。

共創Labでは、関東大震災と同じ地震が発生したら、どのような経済被害が発生し、我々はどのように備える必要があるのか、震災から100年を前に検討を開始しました。

現在までに、①1923年に発生した関東大震災の被害の概況、②2020年代の今、同じ地震が発生した場合における経済被害額、③学ぶべき教訓をまとまたワーキングペーパーを作成しました。ワーキングペーパーは応用地質株式会社のWebサイトからダウンロードできます。

ワーキングペーパーでは、民間企業の被害を中心にマクロ的に試算したものです。現在は1923年当時とは異なり、サプライチェーンが全国に張り巡らされ、被災地以外への震災の影響も見込まれます。今後の企業の皆様の地震対策への一助となれば幸いです。

民間企業資本ストックの被害推定

地震動による被害を想定し (地震後火災は対象外)、産業別民間企業資本ストックの被害額を推定しました。地震動の分布は、中央防災会議による首都直下地震モデル検討会の推定データを利用しました。揺れの大きさと被害の関係は、過去の地震の被害データをもとに産業毎に設定した損失率曲線を用いています。推計によれば民間企業の資本ストックの被害額は約42兆円と推定されました。この被害額は阪神・淡路大震災、東日本大震災の民間企業のストック被害の7~8倍に相当します。

※ 共創Labでは自然災害の被害推計用に、各種資産の全国50mメッシュ別データベースを作成しています。

空間応用一般均衡モデルによるフローの経済指標 (GDPや産業活動) の予測

関東地震の再来で生じるストック被害だけでなく、GDPや産業の活動水準といったフローの経済指標に与える影響を経済モデル (空間応用一般均衡モデル) により推計しました。

右図は地震発生から1年間で生じた都道府県別の域内総生産 (GRP) の変化額 (単位10億円) を示したものです。これを全国で合計した国内総生産 (GDP) の変化額は最初の1年間で約61兆5千億円の減少となります。平時の年間実質GDPに比べ約11.2%の損失となり、深刻な経済ショックとなることが予想されます。

産業毎の復旧プロセスのシミュレーション

空間応用一般均衡モデルは地域の産業の復旧プロセスもシミュレーション可能です。

右図は東京都内の電子部品・デバイス産業の復旧プロセスです。地震発生後の設備復旧率 (設備の能力) に生産が制限されます。さらに取引先の被災により、部品等が調達できず、実際の操業度は設備復旧率を下回ることが予想されます。

設備被害に加えて、サプライチェーン寸断などの自らでは制御できない要因により損失が拡大するリスクがあります。

地震対策を実施した場合の経済効果

シミュレーションでは、全ての企業が設備被害を1/3減らす地震対策を実施した場合の経済被害額も推計しました。その結果、サプライチェーン寸断が大幅に緩和され、地震後の1年間のGDP損失は半減することが明らかになりました。事業者それぞれが供給責任を認識し、サプライチェーンを迅速に復旧させるため地震対策を実施することが経済被害の観点からは重要です。