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熊本地震が九州各県の観光需要に与えた影響の定量分析

2023.03.22

要旨

観光立国は日本の成長戦略の1つの柱であると同時に、地方創生の切り札である。しかしそれを支える観光業は日本の豊かな自然環境を活用しつつも、常に自然災害のリスクに曝されている。そのリスクには、観光施設が直接に被災することだけでなく、旅行に対する人々の心理的不安や自粛も含まれる。被災地外への旅行の取りやめについては研究の蓄積が浅く、定量的な把握やメカニズムの解明が求められている。

本稿では自然災害が観光業にもたらす影響を定量的に分析する。具体的には熊本地震が発生しなかった場合の九州各県の宿泊者数を統計モデルから推定し、これと地震が発生した場合の宿泊者数を地震発生から1年間にわたり比較した。ただし後者からは「九州ふっこう割」の影響は取り除いた。

推定結果から、福岡県や長崎県、鹿児島県といった地震の直接的な被害が少ない地域で宿泊者数の大幅な減少が生じ、これに伴い観光消費額が減少した事が明らかとなった。一方で、地震の直接的な被害が甚大であった熊本県では、地震発生後に宿泊者数は大きく減少しなかった。この要因として復旧関連の宿泊需要の増加が挙げられる。また一部地域で被害が生じた大分県では地震発生直後に大幅に宿泊者数が減少したものの、「九州ふっこう割」により宿泊者数を十分に回復させた。

総じて研究結果が示唆する事は、自然災害の直接の被災地では復旧関連の宿泊需要が災害発生後に生じ、観光需要の減少を埋め合わせるのに対して、被害が軽微であった近隣の県では心理的不安や自粛といった要因により宿泊者需要が大きく減少する可能性があるという事である。その際に政府の観光支援策が重要となるが、支援策の対象地域は被災地とその隣接県だけでなく、より広く検討する必要がある。なお本研究は地震発生から1年間と分析期間が限られている。復旧関連の宿泊需要が減少する長期の場合については別途分析が必要である。

著者 山﨑 雅人
清水 智
井出 修
発行年月 2023年3月
言語 日本語
ページ数 13
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