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共創Lab 清水 智・井出 修
2026.10.27

二つの熊本地震を経済被害の視点から比べる ~マクロな被害と地域産業への影響~

はじめに

2026年7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方でM7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で最大震度7を観測しました。震源は宇城市役所の南南西約2.6kmに位置します。(参考文献1) 地震活動は主として日奈久断層帯の高野―白旗区間及び日奈久区間に沿って分布し、地震調査研究推進本部の地震調査委員会は、震源断層の主たる部分が高野―白旗区間の一部及び日奈久区間の北東部に及んだと評価しています。(参考文献2)

この地域では2016年4月16日にM7.3の地震が発生しており、益城町や西原村で最大震度7を観測し、大きな被害が発生しています。

熊本県内で発生した二つの地震にはどのような違いがあるのでしょうか。本稿では、地震動の分布、強い揺れにさらされた地域の民間企業資本ストック、県内総生産への影響を比較し、経済被害を複数の視点から把握する必要性を考えます。

地震動分布の違い

地震が発生すると、気象庁や自治体の震度観測点、防災科学技術研究所の強震観測点で地震波形が記録されます。(参考文献3・参考文献4) また、観測結果から地震の規模や震源断層の位置・形状などが推定されます。(参考文献5・参考文献6) これらの情報を用いて、2016年及び2026年の地震による震度を250mメッシュごとに推定した結果を【図1】に示します。黒枠で示した震源断層の近傍には、赤色の震度7の地域がみられ、その周囲を取り巻くようにオレンジ色の震度6強の地域が分布しています。2016年の地震では震度6強以上の地域が熊本市の東側に広がったのに対し、2026年の地震では熊本市の南側に広がっています。本稿の推定震度分布を同じ条件で集計すると、2026年の震度6強以上の面積は2016年の約4割程度です。

【図1】震度分布の比較

【図2】は、両地震で震度6強以上(注釈1)となった地域の市町村別割合を示しています。2016年の地震では、熊本市、益城町、西原村、大津町、菊陽町など、多くの市町村で震度6強以上の地域が広がりました。一方、2026年の地震では、震度6強以上となる地域の約半分を八代市と宇城市が占めます。強い地震動を受けた範囲は2016年より限定的でしたが、影響が特定の地域に集中した点には注意が必要です。

それでは、強い地震動を受けた地域には、どのような産業が立地していたのでしょうか。次節では対象を震度6弱以上の地域まで広げ、民間企業の固定資産の分布を比較します。

【図2】それぞれの地震で震度6強以上となった地域の市町村別構成比

民間企業資本ストックの違い

【図3】は、各地震で震度6弱以上となった地域に所在する民間企業の資本ストックを、全国50mメッシュ別民間企業資本ストックデータを用いて推定したものです。(参考文献8・参考文献9) 民間企業資本ストックとは、企業が生産活動に使用する建物、構築物、機械設備などの固定資産を金額で評価したもので、ここでは減価償却控除を差し引く前の粗資本ストックを用いています。強い揺れにさらされた資本ストック (以下、「曝露資本ストック」といいます) は、2016年が約9.3兆円に対し、2026年が約4.8兆円で、2026年は2016年の地震の約52%です。ただし、これらは震度6弱以上の地域に存在する資産の総額であり、実際に壊れた金額や復旧費用ではありません。

【図3】震度6弱以上の地域に所在する民間企業資本ストックの比較

【図4】は、震度6弱以上となった地域の曝露資本ストックを業種別に示しています。2026年は曝露資本ストックの総額が2016年より小さいため、いずれの業種も2016年を下回っています。ただし、減少割合は業種によって異なります。農林漁業、鉱業・建設業、製造業では、2016年と比べた減少割合が他の業種より小さく、2026年の強震域では相対的に存在感が大きい業種となっています。

では、強震域に分布する産業の種類や集積度の違いは、その後の経済活動にどのような差をもたらすのでしょうか。

【図4】震度6弱以上の地域に所在する民間企業資本ストックの業種別比較

県内総生産に与える影響の違い

産業の種類や集積度の違いが経済活動に与える影響は、県内総生産 (Gross Regional Product。以下「GRP」といいます) への影響から捉えることができます。GRPは、一定期間に県内の生産活動によって新たに生み出された付加価値の総額であり (参考文献10)、GDPの地域版に相当します。本稿では、【図5】に示す方法により、両地震が熊本県のGRPに与える影響を推定しました。詳しい推定方法は文献を参照ください。(参考文献11)

GRP損失は、物的被害額をGRPに読み替えたものではありません。まず、名目GRPから平常時の業種別・日別GRPを求めます。次に、地震直後の操業能力、企業の機能的フラジリティ (地震動に応じて操業能力がどの程度低下するか)、復旧過程を表すリカバリーカーブ、停電・断水等のライフライン途絶とその影響を反映し、日ごとの操業可能率を推定します。最後に、平常時と発災後のGRPの差を期間内で累積し、GRP損失額を算定します。参考までに、曝露資本ストック、直接被害、GRP損失の違いを【図6】に示します。なお、本稿で示したGRP損失は簡便に求めたもので、サプライチェーンの影響等は考慮していない点に注意してください。

【図5】経済被害推計の考え方
【図6】曝露資本ストック・直接被害・GRP損失の違い

【図7】は、両地震について発災後1年間のGRP損失率を比較したものです。2026年の地震によるGRP損失額を、発災後1か月で約750億円 (損失率13.7%)、1年間で約1,320億円 (同約2.0%) と推計しています。(参考文献11) これらは実績値ではなく、一定の仮定に基づくモデル推計値です。2016年との比較については、推計条件の違いが結果に影響するため、本稿では「2026年の推計値は2016年より小さい」と整理します。

【図7】発災後1年間のGRP損失率の比較

【図8】は、発災後1年間のGRP損失額 (推計値) について、業種別構成割合を比較したものです。2016年と比べると、2026年は「鉱業・建設業」と「製造業」の割合が高くなっています。最新の遡及改定値による実質GRPを2015年度と2023年度で比べると、熊本県全体は約1.10倍、鉱業・建設業は約1.67倍、製造業は約1.30倍です。こうした産業構造の変化は、推計された構成割合の違いに影響した要因の一つと考えられます。ただし、地震動の分布、事業所の立地、操業可能率及び復旧過程の仮定にも左右されます。

【図8】発災後1年間のGRP損失額の業種別構成割合の比較

【図9】は、【図8】の製造業の内訳です。2016年と比べて2026年に構成割合が高くなった業種には、「紙・パルプ」「輸送機械」があります。このうち、「紙・パルプ」の実質GRPは約6割に減少していますが、本稿モデルによる1年間のGRP損失額 (推計値) は約3倍となっています。この結果は、2026年の強震域と同業の事業所立地が重なったことなどにより、同業への相対的な影響が大きく推計された可能性を示します。ただし、推計結果は操業可能率や復旧期間等の仮定にも左右されるため、実際の被害額が3倍になったことを意味するものではありません。

【図9】製造業のGRP損失額(推計値)に占める業種別構成割合の比較(発災後1年間)

全体の視点と地域・産業別の視点

【図7~9】は、熊本県全体のGRPへの影響を示しています。県全体という視点では、本稿で推計した2026年のフロー損失は2016年より小さい結果となりました。しかし、地域や産業別にみると、2026年の影響が一様に小さいとは限りません。

前節では、2026年の地震による「紙・パルプ」製造業への相対的影響が、2016年より大きく推計されたことを示しました。被災地の一つである八代市では、同業が製造業全体に占める存在感は他地域と比べて大きく、2025年経済構造実態調査 (参考文献12) によれば、製造業製品出荷額等の約19%、粗付加価値額の約15%を占めています。(注釈2) 宇城市や氷川町でも熊本県全体だけでは捉えにくい多様な経済活動が行われています。これらの被災地に立地する産業の速やかな復旧・復興は、被災地域の経済活動と生活再建に欠かせません。

災害時には、経済活動への影響を示す指標として、GDPやGRPの減少額・減少率が推定・公表されることがあります。(参考文献15・参考文献16) これらは全国または県全体への影響を把握するうえで有用ですが、地域や産業によって影響の大きさや復旧速度は異なります。県全体の指標と、地域・産業別の情報を併せて示すことが重要ではないでしょうか。

おわりに

本稿では、共創Labがこれまで蓄積してきた研究成果に基づき、二つの熊本地震について、地震動分布、曝露資本ストック及びGRP損失を比較しました。今回の推定には、観測記録に基づく地震動分布を用いていますが、同じ考え方は将来の想定地震にも適用できます。GRPのような損失額は、被災直後の物的被害だけでなく、停電・断水等の継続期間や企業の復旧速度にも左右されます。このため、モデルの前提と限界を明示したうえで、復旧の早期化対策を比較するための一つの指標として活用できます。将来の地震への備えを検討する際には、人的・物的に加え、産業立地、事業中断、ライフライン及び復旧過程を含む経済的影響も、重要な判断材料の一つとして捉える必要があります。

注釈
  1. 気象庁の震度階級解説表 (参考文献7) によれば、鉄筋コンクリート造建物では、耐震性の高い建物では「壁、梁 (はり)、柱などの部材に、ひび割れ・亀裂が多くなる。」、耐震性の低い建物では「壁、梁 (はり)、柱などの部材に、斜めやX状のひび割れ・亀裂がみられることがある。1階あるいは中間階の柱が崩れ、倒れるものがある。」と解説しています。また、木造建物では、震度6強で、耐震性の高い建物では「壁などにひび割れ・亀裂がみられることがある。」、耐震性の低い建物では「壁などに大きなひび割れ・亀裂が入るものが多くなる。傾くものや、倒れるものが多くなる。」と解説しています。
  2. 2025年経済構造実態調査は2024年1年間の製品出荷額や粗付加価値額を調査しています。一方、日本製紙は新聞用紙を生産しているN2抄紙機について2025年6月末を目途に停機することを2024年8月7日のプレスリリースで公表しており (参考文献13)、実際、熊本県鉱工業生産指数 (参考文献14) におけるパルプ・紙・紙加工品業の生産指数 (四半期、季節調整済指数) は、2024年は76.9~85.6、2025年は74.0~75.4で推移していたものの、2026年1~6月期は51.9~53.4となっており、2026年の地震前の製品出荷額は2025年経済構造実態調査の金額よりも少なかったと推定されます。
参考文献
  1. 気象庁:2026年07月28日の震源リスト
  2. 地震調査研究推進本部地震調査委員会 (2026):令和8年熊本地震の評価
  3. 気象庁:強震観測データ
  4. 防災科学技術研究所 (2019):防災科研K-NET KiK-net
  5. 国土地理院 (2016):平成28年熊本地震の震源断層モデル (暫定)
  6. 国土地理院 (2026):令和8年熊本地震の震源断層モデル (暫定)
  7. 気象庁:気象庁震度階級関連解説表
  8. 清水 智、山﨑 雅人、井出 修、時実 良典、菊地 ひめか (2023):様々な自然災害に対応した被害推定用の全国50mメッシュ別民間企業資本ストックデータの作成 令和5年度土木学会全国大会第78回年次学術講演会 IV-47
  9. 共創Lab ワーキングペーパー:自然災害による経済被害推計のための全国50mメッシュ別民間企業資本ストックデータの作成
  10. 神奈川県:県民経済計算の概念と各統計表の用語解説
  11. 共創Lab ワーキングペーパー:令和8年熊本地震の災害速報レポート ~民間企業の直接被害額・フロー損失額の推計~ Ver.2.0
  12. 経済産業省 (2026):2025年「経済構造実態調査 (製造業事業所調査)」
  13. 日本製紙株式会社 (2024):日本製紙グループの生産体制再編成について
  14. 熊本県:鉱工業指数 (IIP)
  15. 内閣府 (2011):月例経済報告等に関する関係閣僚会議 震災対応特別会合資料 -東北地方太平洋沖地震のマクロ経済的影響の分析-
  16. 内閣府政策統括官 (経済財政分析担当):平成28年熊本地震の影響試算について