自然災害による事業所の廃業実態とそのリスクを考える
はじめに
廃業とは、経営者自身の判断で事業活動を終了することを指します。(参考文献1) 廃業に様々な理由があります。「経営者の引退と廃業に関するアンケート (2023年調査)」(参考文献2) によれば、高齢、体力や気力の衰え、健康上の理由など「経営者の事情による廃業」もあれば、売上の低迷、債務の支払い困難、取引先の廃業・倒産、災害など「事業継続困難による廃業」など、理由は多岐にわたります。
一般に、大規模な自然災害が発生すると、大きな被害を受けた事業所では復旧の見込みが立たないなど、様々な理由で廃業が発生するケースがあります。2024年に発生した能登半島地震でも、奥能登地域を中心に多くの事業所が廃業したと報道されています。(参考文献3) 災害発生後に多くの事業所が廃業に追い込まれると、被災地の社会・経済に大きな打撃となり、災害からの復興がより困難になります。
本コラムでは、公表されている統計情報を利用して、過去35年間の自然災害による廃業(注釈1)実態 (参考文献4・参考文献5) を紹介するとともに、災害による廃業要因や廃業リスクについて解説します。
日本の廃業実態
先に述べた通り、事業所の廃業には様々な理由があります。では、災害以外も含めた廃業率はどのように推移してきたのでしょうか。ここでは、総務省統計局が公表している事業所・企業統計調査 (参考文献6)、経済センサス (参考文献7)を利用して推定された、市区町村ごとの年間廃業率を紹介します。
【図1】は1991年から2021年までの年間廃業率の全市区町村の平均値の推移を示しています。(注釈2) 1990年代は2~3%程度、2000年代は4%程度、2009年以降は5~6%程度の水準で推移していることが分かります。
ただし、これらの廃業率の推移には地域差があります。【図2】に1991~1996年および2014~2016年の市区町村別の年間平均廃業率を示します。1991~1996年は2014~2016年と比較して全国的に廃業率が低く、特に山間部で廃業率が低い傾向があります。一方、2014~2016年は、中部地方や四国地方などの一部地域では山間部でも高い廃業率を示す地域もあり、調査時期によって廃業率の地域的な傾向も変化していることが分かります。また、1991~1996年では、神戸市やその周辺市区、奥尻町で廃業率が極端に大きく、地震被害の影響で廃業率が大きく増加していたことが分かります。
自然災害による廃業実態の推定
過去、自然災害によってどの程度の事業所が廃業に追い込まれたのでしょうか。災害による事業所の廃業数に関する統計はなく、正確な値は分かっていません。ここでは、事業所・企業統計調査6)や経済センサス (参考文献7) から推定された「自然災害による超過廃業事業所数」を紹介します。
自然災害による超過廃業事業所数とは、【図3】に示すように、災害が発生したことによる廃業事業数の増加分を指します。
1986~2021年の過去35年間における日本の超過廃業事業所数は約33,000事業所と推定されています。(参考文献5) この数値は期間内の廃業事業所数の0.33%を占めており、このうち地震災害は約94%を占めています。
【表1】に、過去35年間の超過廃業事業所数が多かった上位4つの災害を示します。最も多かったのは1995年の阪神・淡路大震災で、次いで2011年の東日本大震災でした。この2つの災害で全体の88%を占めており、「大震災」と呼ばれる災害がもたらした影響の大きさが分かります。
また、【表2】には超過廃業率が高かった上位4市区町村を示します。いずれも2011年東日本大震災の三陸沿岸で津波被害を受けた町です。このように規模の小さな自治体で大きな被害を受けると超過廃業率が高くなる傾向があります。
| 災害名称 | 災害の種類 | 超過廃業事業所数 | 全災害に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 1995年阪神・淡路大震災 | 地震災害 | 16,847 | 51.1% |
| 2011年東日本大震災 | 地震災害 | 12,212 | 37.1% |
| 2016年熊本地震 | 地震災害 | 1,413 | 4.3% |
| 令和元年東日本台風 | 気象災害 | 796 | 2.4% |
| 市区町村名 | 災害名称 | 超過廃業事業所数 | 超過廃業率 | 全半壊率 |
|---|---|---|---|---|
| 大槌町 | 2011年東日本大震災 | 464 | 61.1% | 71.5% |
| 南三陸町 | 2011年東日本大震災 | 496 | 58.1% | 62.2% |
| 女川町 | 2011年東日本大震災 | 352 | 57.5% | 83.1% |
| 山田町 | 2011年東日本大震災 | 447 | 52.2% | 47.3% |
災害による潜在的な廃業リスク (全壊率と超過廃業率の関係)
過去35年間の自然災害で被災した市区町村と超過廃業率の関係を分析すると、災害による超過廃業率には以下の要因が影響を与えていることが分かりました。
- 被害の大きさ (全壊率)
- 人口減少率
- 津波被害の有無
- 中心市(注釈3)からの距離
上記の要因の中で最も影響が大きいのが被害の大きさですが、それに次いで人口減少率の影響が大きくなります。これは、人口減少が進む地域では経営者の年齢が高い傾向がみられることや、復興後の経営の見通しが立ちにくいことも関連していると考えられます。
これらの要因を示す統計データから試算された市区町村ごとの災害による廃業リスクを【図4】に示します。【図4】の左側は全壊率、右側は廃業リスク (超過廃業率) を示しています。ここでの廃業リスクは、それぞれの地域の直下4kmでM6.8の地震が発生した場合の全壊率や人口減少率などに基づいて算出した超過廃業率です。(津波被害の影響は考慮していません)
【図4】の左側の全壊率は、沿岸部や低地部に市街地が広がる地域を中心に値が高くなっており、地盤条件により揺れが大きくなる地域で深刻な被害が発生することを示しています。一方、【図4】の右側の超過廃業率は、全壊率の大きい地域で値が高くなっている一方、内陸の中山間地域や半島先端地域でも値が高くなる傾向が見えます。
おわりに
本コラムでは、過去35年間の自然災害による廃業実態を紹介するとともに、災害による超過廃業率に与える要因や災害による廃業リスクについて解説しました。【図4】に示したように、全壊率がそれほど高くなくても廃業リスク (超過廃業率) が相対的に高くなる地域もあります。超過廃業率が高くなりやすい地域では、被災後の地域経済の復旧・復興に時間を要する可能性が高く、地域の特徴に応じた事前の備えや経済被害推計、これらに基づく各種の計画・対策等を立てる必要があるのではないでしょうか。
- 注釈
-
- 本コラムでの廃業には事業所の移転も含む点にご注意ください。
- 事業所・企業統計調査や経済センサスは2~5年間隔で実施されています。【図1】は各年の調査年と前回調査年の間の年間平均廃業率を市区町村毎に算出し、その平均値を示したものです。
- 本コラムでは県庁所在市、政令市、中核市、東京都千代田区・中央区・港区・渋谷区・新宿区のことを「中心市」としています。
- 参考文献
-
- 一般社団法人日本プロ経営者協会(2025):廃業とは?近年の動向・メリット・デメリットや避ける方法を解説
- 日本政策金融公庫総合研究所(2023):経営者のみの企業は承継が進まず、経営者の引退による廃業が増加 ~「経営者の引退と廃業に関するアンケート (2023年調査)」結果から~
- 上田真由美(2024):能登の被災地、100超の事業所が廃業 100年以上続く衣料品店も,朝日新聞,2024年5月28日紙面
- 清水智・山﨑雅人・井出修(2025):自然災害による廃業事業所数の試算 ~事業所・企業統計調査と経済センサスによる推定~,応用地質ワーキングペーパー,No.10
- 清水智・山﨑雅人・井出修(2025):自然災害による廃業事業所数の試算,第20回防災計画研究発表会
- 総務省統計局:事業所・企業統計調査
- 総務省統計局:経済センサス