応用地質株式会社応用地質株式会社共創Lab

共創Lab 上席研究員 清水 智
2026.06.25

被災地へのアクセシビリティの重要性

はじめに

本コラムでは、復旧活動に従事する人員の「移動時間」に着目し、 被災地へのアクセスのしやすさ (アクセシビリティ) が復旧に与える影響を、過去の地震事例をもとに考察します。

災害後の被災地の復旧・復興の進み方は一様ではありません。地震、水害、パンデミック等の災害の種類、被害の規模や広がり、被災地の特徴、社会・経済情勢等により、早期に復旧・復興が果たされる場合もあれば、復旧・復興がなかなか進まないといった場合もあります。【図1】は、被災地の復旧状況を示す一例として、2011年東日本大震災 (岩手県)、2016年熊本地震、2024年能登半島地震それぞれについて、停電・断水が7割回復するのに要した日数を示したものです。熊本地震と比べ、東日本大震災 (岩手県) や能登半島地震では停電や断水の復旧に時間を要したことが分かります。

では、このような復旧速度の違いはどこから生じるのでしょうか。【図1】では復旧速度を表す例として停電・断水の回復状況を示しましたが、以降では、停電・断水以外も含めた復旧活動全般を対象として少し考えてみたいと思います。

【図1】過去の地震で停電・断水の7割が回復するのに要した発災からの日数
参考文献1参考文献2参考文献3より作成

過去の地震における被災地へのアクセシビリティ

復旧速度に影響を与える要因は複数ありますが、今回は「被災地へのアクセシビリティ」の面から考えたいと思います。「アクセシビリティ」を示す指標は様々あります。ここでは、応急対応・復旧活動に従事する作業員の被災地へのアクセス、すなわち「被災地と作業員の宿泊施設の移動時間」をアクセシビリティ標としました。復旧活動には、多くの技術者や作業員、応援職員、さらにはボランティアなど、被災地の外から人が入ってくることが欠かせません。しかし、被災地内または被災地に近い場所で宿泊場所を確保できなければ、日々、彼らは宿泊施設と被災地の長距離移動を強いられることになります。このことが事故や作業効率の低下につながり、最終的には復旧速度の低下に影響する可能性があります。また、被害が大規模となった場合は、復旧人員の規模に合わせて必要な宿泊施設も増えるため、より遠くに宿泊場所を確保せざるを得ない作業員が増えてしまいます。

では、【図1】に示した3つの地震における「被災地へのアクセシビリティ」はどのような違いがあったのでしょうか。【図2】は、被災地の緊急道路網と被災地外の宿泊施設 (宿泊容量) の分布から推定した復旧作業員の移動時間 (被災地~宿泊施設) の構成割合を示したものです。なお、ここでの移動時間はあくまで平常時の平均的な移動時間です。発災後の交通集中や被災による交通支障を考慮しておらず、移動時間のポテンシャルを示している点にご注意ください。また、地震により被害量は異なるため、被災地の全半壊棟数の4分の1に相当する作業員数が被災地外の宿泊施設を被災地から近い順番に必要な施設数を利用する仮定で分析をした結果になります。

【図2】復旧作業員の宿泊施設と被災地の間の移動時間の構成割合 (推定値)
参考文献4より作成

【図2】から、熊本地震では移動時間の短い場所における宿泊施設の確保が容易であった一方、東日本大震災 (岩手県) や能登半島地震では多くの復旧作業員が長時間の移動を強いられたと推定されます。移動時間 (片道) 120分以上となる復旧作業員は、東日本大震災で2割以上、能登半島地震では4割を占めており、被災地へのアクセスは熊本地震と比べると容易ではなかったことが分かります。

東日本大震災 (岩手県) の場合、被災地の東側が太平洋に、南側が同じく被災した宮城県に面しており、主に被災地の西側の宿泊施設しか利用できないことが、移動時間が長くなった原因と考えられます。同じく、能登半島地震の場合、半島部が被災地となったため、被災地の南側の宿泊施設しか利用できないことが、移動時間を長くした要因となりました。

このように、地形、道路ネットワーク、宿泊施設の分布等の被災地の地域性がアクセシビリティに大きく影響しますが、同じ地域で発生した災害であっても被災規模や被災地の広がりにより、アクセシビリティが変化する点は注意が必要です。

【表1】は2007年と2024年に発生した能登半島地震の全半壊棟数、断水日数、宿泊施設と被災地の移動時間 (ポテンシャル) を比較したものです。また、【図3】には2つの地震の被災地と復旧作業員が使用した被災地外の宿泊施設の分布 (推定結果) を示しています。ここでは、全半壊棟数1000棟以上または全半壊率10%以上の市町を被災地としています。同じ能登半島で発生した地震ですが、震源や地震の規模 (マグニチュード) がそれぞれ異なるため、被災地の広がり方も大きく異なります。2024年の地震の全半壊数は2007年の10倍に相当し、復旧に必要な作業員も大きく増えました。これらの影響を受け、2024年の地震では能登半島内の宿泊施設の利用が困難となり、アクセシビリティの問題が顕在化しました。宿泊施設から被災地への平均移動時間は48分から93分と約2倍に増加し、多数の作業員が長距離移動を強いられる結果となりました。

【表1】2007年と2024年の能登半島地震における全半壊棟数・断水日数・移動時間の比較
2007年能登半島地震
(マグニチュード6.9)
2024年能登半島地震
(マグニチュード7.6)
全半壊棟数 (石川県)1 2,426棟 24,890棟
断水日数2 3日 43日
宿泊施設からの移動時間 (推定値)3 48分 93分
  1. 消防庁被害報 (参考文献5参考文献6) による値
  2. 断水戸数が最大値から70%減少するのに要した期間 (参考文献3参考文献7)
  3. 全半壊棟数の4分の1に相当する復旧作業員が被災地外の宿泊施設を利用すると仮定した場合における宿泊施設から被災地までの全作業員の移動時間の平均値 (推定値)
【図3】2007年と2024年の能登半島地震における被災地の広がりと作業員が利用したと推定される被災地外の宿泊施設の分布 (ポテンシャル評価)

これまで、被災地の広がり、被害規模、道路ネットワーク、宿泊施設 (宿泊容量) の分布から、災害が発生した場合の被災地へのアクセシビリティの分析例を紹介してきました。地震の規模や震源の場所等が異なると、被災地へのアクセスが困難となり復旧活動に支障が出てくるケースが出る可能性もあり得ます。今後の発生が懸念される地震に対しても、様々なパターンに応じて被災地へのアクセシビリティを事前に分析をしておくことで、復旧活動の支障を軽減する対策の検討が可能になるのではないでしょうか。

将来への備えのために

2024年3月にバスで輪島市を訪問させていただく機会がありました。発災から3か月近く経過していましたが、「のと里山海道」や「国道249号線」は片側通行となっており、通行車両も集中して大変混雑していました。これらの幹線道路は人員・物資を穴水町、輪島市、能登町、珠洲市へ送る血管のような重要な役割を担っています。交通・物流を支えている道路・ライフライン等の社会インフラが支障なく稼働してこそ、地域経済や地域社会が安定的に活動することが可能となります。被災地の社会・経済活動の回復には発災後の社会インフラの速やかな機能復旧が求められます。その一方、少子高齢化や社会インフラの老朽化が進む中、社会インフラの維持管理は我が国の重要な課題となりつつあります。「災害後の民間事業所の復旧・地域経済の復興に対して社会インフラが果たした役割」これを定量的に評価していくことは、今後の効果的なインフラ強靭化や適切な維持管理を考える上で重要な視点のように思えてなりません。

参考文献
  1. 能島 暢呂:東日本大震災におけるライフライン復旧概況 (時系列編) Ver.3
  2. 能島 暢呂:熊本地震における供給系ライフラインの被害と復旧 ~震災から得られた教訓と残された課題~
  3. 能島 暢呂・加藤 宏紀:2024年能登半島地震における石川県内の供給系ライフラインの被害・復旧と災害間比較
  4. 清水 智・山﨑 雅人・濱田 俊介・井出 修 (2026年):過去の被害地震における被災地と宿泊施設のアクセシビリティの比較
  5. 消防庁:平成19年 (2007年) 能登半島地震 (第49報)
  6. 消防庁応急対策室:令和6年能登半島地震による被害及び消防機関等の対応状況 (第123報)
  7. 国土交通省:「平成19年 (2007年) 能登半島地震水道施設被害等調査報告書」について