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共創Lab 主席研究員 山﨑 雅人
2023.07.11

自然災害の経済被害に備える (1) 近年の自然災害の経済被害額

経済面からの減災リテラシー

近年、自然災害による経済被害に対する関心が高まっています。背景には自然災害による資産損失や事業中断といったリスクが高まっている事が考えられます。特に発生が懸念される南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった地震は、多くの資産が存在し、経済活動の中枢である都市部をも襲う大地震です。このような地震が発生すれば、揺れや津波の被害に加え、被災地を中心に甚大な経済被害が発生し、所得の低下や失業、負債の増加などに多くの人々が苦しむことになるでしょう。自然災害から命を守るだけでなく、生活を守るためには、自然災害による経済被害について理解を深めることが大切です。

このコラムでは、自然災害による経済被害に関わる様々な話題を提供し、「経済の視点から」、読者の方々の減災リテラシー向上に貢献していきたいと考えます。

自然災害の経済被害額

そもそも自然災害による経済被害とは何でしょうか。経済被害は、住宅や生産設備の毀損に伴う資産価値の損失、企業の事業中断による利益の減少、失業等による労働者の所得の低下など様々な形で現れます。これらは金額で表すことができるため、経済被害額を計算することができます。

実際に、2011年以降に政府等から発表された主な自然災害による経済被害額を見ていきましょう。【表1】に2011年以降に政府と学会から発表された自然災害による経済被害額をまとめました。

【表1】近年公表された自然災害の経済被害額 (発表年順に整理)
経済被害額 発表年 公表機関
東日本大震災 16.9兆円 2011年 内閣府
[想定] 南海トラフ巨大地震 [合計想定額] 220兆円 2013年 内閣府
[想定] 首都直下地震 [合計想定額] 95.3兆円 2013年 内閣府
[想定] 南海トラフ巨大地震 [合計想定額] 1,440兆円 2018年 土木学会
平成30年7月豪雨 (西日本豪雨) 1兆2150億円 2018年 国土交通省
東日本台風 1兆8000億円 2019年 国土交通省

まず2011年に発生した東日本大震災による経済被害額ですが、内閣府が16.9兆円として公表しています※1。この金額は被災した建物を主に再調達価格で評価し、算出されています。再調達価格とは、評価時点で同等のものを新たに購入する際の価格のことを言います。

2013年には同じく内閣府から南海トラフ巨大地震(陸側ケース)の想定経済被害額が公表されました※2。東日本大震災から間もない時期ということもあり、その想定額は大手の新聞紙面1面で「220兆円」と大々的に報じられました。ただし、実際の内閣府の報告書では、建築物の被害額が169.5兆円、地震発生から1年間のGDP減少額が44.7兆円、交通寸断に由来する費用が6.1兆円と項目ごとに推計されており、これらを合計した金額は記載されていません。

南海トラフ巨大地震については、2018年6月には土木学会が、南海トラフ巨大地震が発生した場合に想定される地震後20年間の経済被害額を公表し、その額が1,440兆円と巨額であったため注目を集めました※3。1,440兆円の内、170兆円が建物の損失額であり、1,240兆円が発生から20年間の累積GDP損失額です。

続いて、首都直下地震(都心南部直下地震)についての経済被害額ですが、2013年12月に内閣府より公表されています※4。報告書によれば建物の被害額が47.4兆円であり、地震発生から約1年間のGDP減少額は47.9兆円に達し、合計95.3兆円の経済被害額が発生すると記載されています。

その他、国土交通省は2018年に平成30年7月豪雨(西日本豪雨)の建物等の被害額を約1兆2,150億円と推計し公表しています※5。また2019年に発生した令和元年東日本台風の経済被害額を約1兆8,000億円と推計し公表しています※6。いずれも発表時点では統計開始以来最大の水害に伴う経済被害額となっています。

まとめ

これらの金額は自然災害の規模を経済面から捉える上で参考となります。しかしながら、これらはともすれば数字だけが独り歩きし、どのような意味を持つ数字なのかが私たちに見えにくくなってしまうことがあります。つまり、数字が「自分事」として理解できなくなるのです。

大切なことは、自然災害による経済被害を「自らが直面するリスク」と捉えることです。自然災害による経済被害は様々な経路を経て私たちの生活に影響を与えます。命を守ることはもちろん、自らの生活を守るために何ができるのか、経済面からも減災リテラシーの向上が求められています。

一連のコラムでは自然災害の経済被害について、私たち一人ひとりの生活との関連に焦点を当てて説明していきたいと思います。