応用地質株式会社応用地質株式会社共創Lab

自然災害に起因する経済被害額の推計手法に関する研究 ~応用一般均衡モデルの適用可能性の検証~

2025.11.14

要旨

現代経済は、世界的に展開された広範なサプライチェーンネットワークを活用し、効率的な生産体制を構築している。しかし近年の自然災害の激甚化・頻発化は、サプライチェーン寸断を引き起こし、被災地にとどまらず広域にわたり生産活動を停滞させている。この生産活動の停滞に伴う経済被害は、「間接被害」あるいは「フローの経済被害」と呼ばれ、防災対策による最小化が社会的課題となっている。

本研究の目的は、間接被害額の予測手法を高度化することである。これまで自然災害の間接被害額を予測あるいは事後把握するために、さまざまな経済モデルが開発されてきた。本研究ではその中で応用一般均衡モデルを採用する。応用一般均衡モデルは、経済学の一般均衡理論を基礎とし、産業連関表を用いてパラメータを設定する経済シミュレーションモデルである。このモデルは、貿易政策や環境・エネルギー政策、交通政策などの分野で世界的に広く利用されている。特に、地域間産業連関表を利用することで地域間の経済的つながりを明示的に考慮できる利点がある。また、一般均衡理論に基づいて構築されるため、消費者や企業の行動原理、資源制約、経済収支の整合性、価格変化を通じた市場間の相互作用を考慮できる。

本研究は、自然災害による間接被害額の予測において、応用一般均衡モデルの適用可能性を検証することを目的とし、東日本大震災がもたらした短期の経済影響の再現を試みた。本研究で用いた応用一般均衡モデルは、都道府県間産業連関表に基づいて構築された多地域モデルであり、資本ストックの稼働率を内生的に決定される変数として取り扱う点に特徴がある。

検証の結果、2011年3月は概ね実績を再現できたが、4月から5月は輸送機械工業を中心に被害額の過小評価が見られた。これは、供給寸断が生じたクリティカルパーツが産業連関表上で独立していないことが原因であり、産業連関表の地域・業種の詳細化による精度向上が今後の課題となる。

間接被害額の予測精度の向上により、防災投資の費用便益分析の精緻化や企業のBCP策定に資する情報提供が期待される。

著者 山﨑 雅人
(応用地質株式会社 共創Lab)
清水 智
(応用地質株式会社 共創Lab)
井出 修
(応用地質株式会社 共創Lab)
発行年月 2025年11月
言語 日本語
ページ数 19
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