現状と課題

従来からの水質管理では、専ら何の有害物質をどこの系外に排出するかによって、重金属やVOC、農薬などの有害物質項目(健康項目)、pH, BOD, COD, SSといった生活環境項目、および全亜鉛、ノニルフェノールといった水生生物保全項目について、それぞれの地域性や希釈などを鑑み環境基準値が設定されています。ところが、そのような限られた基準物質以外に、世界中で化学物質がどんどん新規につくられており、毎日1万種以上にも上ると言われています。その伸びは今後も増え続けることが予想されており、これまでの環境管理の方法では十分な知見が及ばないリスクをはらんでいます。

例えば、現行、数十項目の規制物質に加え、CAS登録分だけでも分析するだけで膨大な時間とコストがかかります。また未知の物質やそれらの複合影響を予測することは到底困難です。

課題の解決方法

そこで課題解決として、WETと呼ばれる生物による応答…バイオアッセイを用いた毒性評価が提案され欧米を中心に普及が進んでいます。WETとはWhole Effluent Toxicity(日本語では「全排水毒性」)の頭文字をとったものです。2019年には生物応答試験を用いた排水の評価手法とその活用の手引きが環境省より発行されています。

WETの評価とその特徴

生物応答試験(WET)を用いることで、個別物質の化学物質濃度による判定は出来ませんが、従来の化学分析では出来なかった未規制物質・未知物質の影響や、化学物質同士の複合影響の検討ができます。WETは、一般に水試料を甲殻類、魚類、藻類の試験生物に暴露させ、その毒性影響を把握するものです。

応用地質グループのエヌエス環境株式会社では数多くの実績を有しています。

WET試験の実施状況です。

下図左の魚類は、受精卵がふ化し生存しているかどうかを ゼブラフィッシュを用いて確認したものです。下図中央の動物プランクトンは生殖異常がないかどうか ミジンコで確認したもの、また下図右の藻類は、成長阻害がないかどうか ミカヅキモで確認をしたものです。このような手法で毒性影響の把握を進めていきます。

調査の流れとアウトプット

調査の流れと、取りまとめのアウトプットを下図に示します。

採水試料及び採水箇所情報を事前調査してから採水し、36時間以内に分析室に持ち込み試験を開始します。そして概ね1か月程度で試験結果及び毒性影響が見られた場合の原因の推定など分析結果の概要版を説明させていただきます。さらに毒性影響がみられた場合、毒性削減評価(TRE)/毒性同定評価(TIE)の実施を通じ、削減方法のご提案を行うこともできます。

WET適用のメリット

第一に、生物多様性に配慮している企業として、ステークホルダー向けにアピールすることが可能です。これまでWETを実施してきた企業では、環境に配慮した事業活動の取組み事例として、各種環境レポートや統合報告書で紹介されています。

第二に、近隣や関係者とのリスクコミュニケーションへの活用が期待できます。大手食品メーカーの事例では、工場移転に伴う排水放流先の河川における、アユの生息環境への影響を説明するためにWET試験を行うなど、地元の漁協関係者とのリスクコミュニケーション手段として活用しています。また、大手ゴム製品製造企業では、化学物質漏洩に関わる環境リスク評価として同試験を行い、周辺住民とのリスクコミュニケーション手段として活用した事例などがあります。