現状と課題

年間の蒸発量が降水量を上回る乾燥帯は、世界中の陸地の1/4以上におよぶと言われ、こうした地域では、草丈の低いステップといわれる草原や砂漠が広がっています。このような地域の植生はとても貧弱で、一度破壊してしまうと再生できず、生産力の低い荒廃地となってしまいます。こういった荒廃地では食料を十分に作ることができず貧困の原因となり、それが過度な放牧や灌漑をもらたし、更に植生を破壊して荒れ地を増やすという負のサイクルとなる事例もあり、持続可能な開発の観点からも問題となっています。

このような背景をふまえ、持続可能な循環型社会や脱炭素社会を実現するために、継続的な緑化や植林活動が求められています。

これまで、企業による緑化や植林は、主にCSRの観点で行われてきました。しかし、近年の世界的なESG投資への流れをふまえ、SDGsへの積極的な貢献として、緑化や植林による二酸化炭素の吸収・固定をクレジット化して売買する動きも加速しています。

植林の問題点

国内外で植林に用いられるのは、主に畑に種を蒔き根切りや床替えをして育てた裸苗や、人工的にポットで発芽させて生育させたポット苗とよばれる苗です。しかしながら、裸苗の根は根切りのため、またポット苗の根はポットの形状に合わせて生長するため、天然木と異なり地中深くに伸びる根が成長しません。そのため、ポット苗から育った樹木の根は、浅く短く、密生している場合が多く、植林しても枯れてしまうこともあります。特に、降水量が少ない乾燥地帯での植林には不向きでした。また、活着しても根の生長が不十分で倒れやすく、倒木だけでなく土砂災害につながることもあります。

天然木の様に成長できる保育ブロック苗

これまで植林に用いられてきた裸苗やポット苗は、育苗方法により根の発達が不十分なことが問題になってきました。そこで、土や堆肥を筒状に固めた「保育ブロック」で根を傷めずに育苗した苗を植樹することで、早期に水分条件の良い地中深くまで根を伸ばすことが可能になります。

保育ブロックは、その筒型の形状に沿って根を地中深くに誘導するため、苗は天然木の様に深く広く根を伸ばすことができます。このような根の誘導により、苗に水分を効率よく吸収させるだけでなく、根を強固に地盤に活着させることができます。その結果、降水量の少ない乾燥地でも高い活着率で植林が可能となります。また、根だけではなく、地上部の生長速度も裸苗やポット苗より早いことが報告されています。

保育ブロックの適応事例

中央アジアに位置するウズベキスタン共和国は、その大部分が砂漠化した平地からなり、農業に伴う灌漑による更なる砂漠化の進行や、干上がったアラル海からの塩類を含んだ飛砂による環境汚染が問題になっています。これらの砂漠化や環境汚染は、貧困を背景とした過度な開墾や農業用水の過剰な利用が主な原因とされています。このような環境問題を食い止めるため、ウズベキスタン政府も積極的に環境対策を行っていますが、 大陸性の寒暖差の激しい気候、少ない降水量等の課題があり、雨水のみで生育可能な緑化技術が求められています。

応用地質は、国際緑化推進センターと共に2017年度からウズベキスタン国内で保育ブロック苗の植栽と、技術普及の一環で説明会の開催や資料の作成を進めています。現在、ウズベキスタン共和国内の気候・土壌が異なる3地区で保育ブロックの実証試験を実施しています。保育ブロックの苗は、裸苗やポット苗より地中深くの水分を吸収できるため、こうした乾燥地の緑化に極めて有効です。応用地質ではこのような乾燥地や荒廃地の緑化事業の取組みを積極的に進めていきます。

応用地質では、保育ブロック苗から成長した木の、根茎が発達し倒れにくい特性を活かし、国内においても東日本大震災で被災した福島県南相馬市の津波防災林の造成に協力しています。2018年に約3haに2,500本の保育ブロック苗を植樹しました。災害に強い防災林となるべく、保育ブロックで育った樹木は現在も成長を続けています。