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コラム

生活と産業を支える「道路」を災害から守る道路防災点検

2025.03.31

自然災害が頻発する現代において、道路は私たちの生活や経済を支える重要なインフラでありながら、さまざまな脅威に直面しています。今回は斜面の補強工事やAI・IoT技術を活用した道路防災点検の取り組み、防災IoTセンサーなど最新の防災対策や点検技術について紹介します。

重要な社会インフラである「道路」も頻発する自然災害の脅威に直面している

道路は私たちの暮らしや経済を支える欠くことのできない社会インフラの1つです。

地域と地域とをつなぐことで、通勤や買い物など人々の日常生活での移動を支えるだけでなく、生活物資や企業活動に必要な材料や製品など、さまざまな物資の輸送も行っています。けが人や病人が出た場合には、道路があることでいち早く病院へ搬送することが可能です。災害時には被災地に向けて救援物資の運搬や復旧活動のための車両の通行にも利用されます。

さらに、道路は都市の形成にも重要な役割を果たしています。道路が整備されることで、沿道に店舗や住宅の立地が促進されます。また、道路の下には水道管やガス管などライフラインが収容されています。ほかにも、火災の延焼を食い止める防災機能や市街地の景観や環境を整える環境空間機能など、さまざま機能を持っています。

ところが近年は地球温暖化等の影響により、土砂災害や河川の氾濫といった大雨による災害が頻発しており、各地の道路が被害を受けるケースが増えています。大雨による災害だけでなく、地震によっても道路はたびたび大きな被害を受けています。2024年1月に発生した能登半島地震では、能登半島の大動脈である国道249号線などの重要な幹線道路が土砂崩れや落石により多くの場所で通行止めになりました。

大雨や地震によって道路脇の斜面が崩壊したり、道路の下の盛土が崩れたりすると、通行中の人や車両が巻き込まれ、大きな事故に発展する恐れがあります。また、道路が寸断されることで、物流が滞り、人々の生活や経済活動にも大きな影響が及びます。能登半島地震においても、広範囲で複数の土砂災害が発生し、被災地に向かう救援物資の運搬や復旧活動に向かう車両の通行に多大な支障が生じたことから、応急復旧だけでも数か月を要する事態に陥りました。

このため、国や各自治体では、道路をさまざまな災害から守るため、日頃から斜面の崩落を防ぐ補強工事や落石の防護柵の設置など防災対策を進めています。また、定期的に斜面などの点検を行い、将来的に崩落などの危険がある箇所を抽出し、事前に対策を講じることで被害を未然に防ぐ取り組みなどを行っています。

道路沿いの危険箇所を点検し防災対策につなげる道路防災点検

道路を守る取り組みのひとつとして、国や自治体により行われているのが道路防災点検です。

道路防災点検は、1968年に岐阜県の国道41号で発生した土砂災害による飛騨川バス転落事故などをきっかけとして、重要な道路に対して実施されるようになりました。現在、主に国道や地方道などの主要な道路を対象に、道路周辺の法面や擁壁、盛土、自然の斜面などが、地震や豪雨、または経年劣化等により危険な状態になっていないか、定期的な現地調査によってチェックを行うものです。

具体的には、落石につながる恐れのある不安定な浮石・転石の存在や、斜面の崩壊につながる岩盤の亀裂、地すべりの兆候、橋梁を支える基礎の河川水による洗堀、水が常にしみ出すなど地盤が不安定になっている箇所などを専門技術者が詳細に調査し、その安全性を評価しています。

応用地質では豊富な専門技術を活かし全国各地の道路防災点検を担当

道路防災点検には、道路を構成するさまざまな土木構造物の施工や維持管理に関する豊富な知識を要するとともに、地形や地質、防災などに関する専門的な知見や技術が要求されます。応用地質では、これらの知識や技術、経験を豊富に持つ技術者が多数所属し、これまで全国の国や地方自治体の管理する道路において膨大な数の道路防災点検に携わってきました。

道路防災点検では、時には下の写真のような急峻ながけを登って斜面の高い位置にある危険箇所を点検し、岩塊の大きさなどを測定するとともに、地質学的な知見などから風化度や今後の崩落の危険度などをチェックします。

調査した危険箇所は防災カルテに記録し、危険度 (管理レベル) を判定した上で、道路管理者に報告します。カルテに記載された危険箇所は、管理レベルに応じて、今後の対応が決定されます。危険度が高く、優先的に監視や対策が必要な箇所は、より高い頻度での点検を行ったり、直ちに対策工事が行われたりします。

点検の効率化や精度向上に役立つ最新のデジタル技術

近年では、AIやIoTを初めとするデジタル技術が発達し、各ビジネスの分野でその活用が急速に広がっています。デジタル技術は、業務の省力化やコスト削減、情報の共有化などさまざまな効果が期待されています。道路防災点検の現場でも実際にドローンや3次元モデル、IoTセンサーなどのデジタル技術が活躍しています。

前述したように、従来の道路防災点検では、専門技術者が沿道を歩いて斜面を観察し、実際に斜面に登って危険箇所を目視で調査を行っていましたが、斜面は深い植生などに覆われているケースも多く、人の目だけではどうしても見落とす可能性があります。

そこで、現在では航空機やドローンを用いて上空から危険箇所を探す取り組みも行われています。航空機やドローンに搭載した3次元レーザースキャナーにより測量を行い、特殊な解析処理を行うことで、植生に隠れた危険な浮石・転石なども漏れなく抽出する技術です。

航空レーザー測量で抽出した転石

また、3次元レーザースキャナーを用いたレーザー測量は、上空からの調査だけでなく、地上からの点検にも用いられています。レーザー測量では、物体の形状や位置関係を表す情報を含む「点群」と呼ばれるデータを取得し、これらのデータを用いて斜面や構造物などの立体的な3次元モデルに変換することができます。しかし、上空の高い位置からではどうしても取得できるデータの密度が粗く、物体の細かい形状まではモデル化できません。

そこで、応用地質では、上空からのレーザー測量に加えて、ハンドヘルド型と呼ばれる小型の機材を地上から併用することで、その欠点を補い、より精度の高い危険箇所の調査を実施しています。ハンドヘルド型レーザーは、取得できるデータの範囲は狭い一方、樹木の種類や構造物の変状の具合まで確認することができます。

ハンドヘルドレーザーで取得した点群データ
計測状況

各種のレーザー測量で得られた3次元点群モデルは、コンピューター上で斜面や道路構造物をさまざまな角度から観察できるほか、危険箇所の位置や形状を可視化して道路管理者と共有したり、任意の地点での断面図を容易に作成したりできるなど、情報共有や業務の効率化、点検成果の品質向上にも大きく貢献しています。

斜面の異常を遠隔・リアルタイムでモニタリング

点検の結果、崩壊の危険度が高い斜面などが認められた場合には、最新のIoTセンサーによるモニタリングを行うこともあります。

クリノポール

クリノポールは、豪雨・土砂災害の広域化・激甚化に対応するため、斜面崩壊の兆候を監視する目的で開発された最新鋭の防災IoTセンサーです。従来の防災センサーに比べ低価格ながら、0.001°という高精度の分解能で地盤のごくわずかな変動を捉え、危険が差し迫った兆候を検知すると自動的に道路管理者へアラートを発信します。クリノポールからアラートを受信した道路管理者は、斜面が崩壊する前に、迅速に通行止めなどの防災措置を講じることで、事故が発生することを未然に防ぐことができます。

そのほか、応用地質では、より低価格で、広い道路の斜面などを面的に監視する姉妹機、「クリノポールNEO」も開発しています。(共同開発者:西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社)

クリノポールNEO

クリノポールNEOは、クリノポールと同様、0.001°の高分解能ながら、1台の通信機につき最大20点のセンサーを設置することができます。センサーとコントローラーの分離により、複数のセンサーからの通信を集約し最適化します。異常や危険性が顕在化した斜面に設置するクリノポールとは異なり、多数のセンサーで斜面を常時、面的に監視することができる予防保全型のIoT防災センサーです。

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