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インタビュー

「イメージできないことは対策できない」災害を可視化する、地震防災コンサルティング

2021.05.31

近年、巨大地震への不安が高まる中、注目されるのが応用地質の地震防災サービス。国や地域の災害対策事業を支えているそのサービスの実際はどのようなものだろうか?長年、応用地質で地震防災に関わる調査・コンサルティング業務に携わっている濱田俊介氏にお話を伺いました。

日本の防災の全体像と応用地質の仕事

応用地質の地震防災サービスとは、一言で言うとどのようなサービスでしょうか?

当社の創業時から事業のベースにある、地質学をはじめとする様々な地球科学に基づく知見をもとに、日本の地震防災行政全般、国から地方自治体まで行政の各階層において、アセスメントをはじめとするコンサルティングなど各種サービスを行なっています。

行政に対するサービスが中心なのでしょうか?

行政へのソリューション提供が主力ですが、企業や団体などにもサービス展開しています。

日本の災害対策は基本的に法律に基づいて計画され、執行されています(図1参照)。その根本がおかれているのが「災害対策基本法」です。国民の生命、身体、財産を災害から保護する目的で定められた法律です。この災害対策基本法に基づいて、日本の防災上必要な施策の基本を定めているのが「災害基本計画」であり、都道府県と市町村は、この災害基本計画に基づいて、「地域防災計画」を策定した上で災害対策を行なっています。このように災害対策は、災害対策基本法から一貫した法令の体系の中で行われており、当社はその各プロセスに応じた様々な地震防災サービスを提供しているため、確かに行政に対するサービスは多いです。

具体的には、どのようなサービスを行なっているのでしょうか?

例を挙げれば、法令計画立案、災害対策を具体化して法令に規定したりする際、国では事前に有識者による検討会などが行われます。この検討会などに供する資料づくりや、そのための調査・アセスメントです。地震被害想定をして、課題を浮き彫りにした上で、リスクの特定や対処の方法、その影響等について検討します。これらの検討には、理学、工学、社会学、経済学など多様かつ高度な専門性が求められます。これらに基づく精度の高いアセスメントが当社の強みと言えます。

図1. 日本の防災体系図

地域性を細かく考慮して策定する地域防災計画

地震被害想定というのはどうやって行うのですか?

デジタル空間の中で、断層、地盤、都市構造などの各種のモデルを作って、シミュレーションにより地震を発生させて行います。例えば、ある特定の大地震の検討をする場合、地震の元となる断層すべりの情報を既往文献や最新研究から設定して、発生する地震波がどのように地盤の中を伝わって、各地でどれくらいの揺れとなり、社会にどのような被害が発生するのかを計算していきます。地震波の伝わりを正確に再現するために、詳細な地盤モデルの構築も行います。国が公開している南海トラフ巨大地震の地震動シミュレーションもこのようにして作成しました。

この地震モデルによってどういったことがわかるのですか?

例えば、被害の範囲がわかります。南海トラフ巨大地震のように被害が大きく範囲も広いものは特別措置法が定められ、対策が進められますが、被害の範囲がわかると、この特措法の対象となる自治体が決まってくるのです。対象となった自治体は南海トラフ巨大地震に対する地震防災戦略を地域防災計画の中に盛り込むことになります。

地方自治体では地震被害想定はどのように行うのですか?

同じようにデジタル空間で地震を再現しますが、国レベルの想定よりも細かく地域性を考慮したものにします。どこに人が何人いて、どのような建物やインフラがあって…、といった具合です。どの街は延焼が広がりそうだ、このエリアの住民は津波から逃げられないのではないか、ライフラインはどれくらい止まりそうか、帰宅困難者がどれくらい出そうか、避難所にはどれくらいの人が集まるかといったことです。これらの作業に必要な時間は、ハザードを導き出すのに1年、被害想定に次の1年くらいはかかります。

地震モデルのシミュレーションはアプリがあるものなのですか?

市販品はありません。プログラムを自社で開発しています。導き出した結果が正しいかどうかを検証するために、地域の古文書を紐解くことが求められることもあります。過去の地震で実際に津波がどこまで届いたか等を確かめるためです。

シミュレーションによって地震の可視化ができるとどんな利点がありますか?

漠然と怖がっていた地震被害のイメージを、数値や文章で具体化して、共有することで地方自治体の皆さんも被害を正しく恐れることができます。そして、効果的な対策の立案につなげることができます。よく言われるのが「イメージできないことは対策できない」ということです。被害を明らかにして、優先順位をつけて、どれをどう対策していくかということを行政、住民と一緒に検討していきます。

これまで想定した中では地域のどんな特殊な事情がありましたか?

南海トラフ巨大地震の特措法の対象地域で私が携わった地域防災計画では、野球スタジアムでの春季キャンプ中に被災した場合を想定したり、ショッピングモールの帰宅困難者の数を予測したり、あるいは、被災地にサプライチェーンの重要な拠点がある場合、そこが寸断されるとGDPにどれくらい影響があるかといったことを数字に出したりしました。

そこまで個々の事情にクローズアップして想定するのは何のためですか?

今の地域防災計画においては、数値目標を設定してアクションプランを決める減災計画を立てることが求められています。その基礎となる具体的な被害量を算定するためです。また、我が国における地域の持続的発展(SDGs)を推進するためです。災害時にも社会の重要な機能を維持しようとする国土強靱化の考えも入ってきています。企業のBCP(事業継続計画)の策定率を上げれば経済への影響をどれくらい減らせるかといったことも踏まえて策定しているのです。

また、近年では、市町村内の一定の地区住民や事業者などが自ら作成する「地区防災計画」も推奨されています。例えば、私は、大分県の由布市で観光組合主導の「由布市観光事業者災害対応マニュアル」を手がけました。平成28年の熊本地震で実際に被害を受けた湯布院では、近年のインバウンドで訪れる海外の方達への対応ということを考える必要が出てきたのです。作成にあたっては、生活習慣の異なる方々の避難、どの飛行場を使って国まで帰すのか、各種大使館との連絡はどうするかに加えて、国内に向けても風評被害の防止対策など、こまごましたことに目を配りました。

国の業務で被害想定の根本となる地震モデルを作り、一方で地域の目線できめ細かな被害想定や防災計画を策定するという、非常に広い範囲を手がけられているのですね。

防災・減災ソリューションについて、既製品からフルオーダーまで応えられるのが当社の強みだと思います。

予測の精度だけでなく“伝える”ことが大事

応用地質は地質学が出発点ですが、現在のように多岐にわたる分野をカバーするようになったのはどうしてですか?

顧客ニーズ、社会的課題の解決に応えて守備範囲を広げてきました。お客さんとも一緒に考え、勉強しながら広がってきたと言うのが正しいかもしれません。社会システムが複雑化する中で、問題が多様化してきており、その課題解決のためのコンサルティングに対応するうちに当社のソリューションも成長してきたのです。そのために人材も確保しました。私自身も大学を出て就職した頃は、まだ、理学的なことしか分からずに地震動を予測していたのですよ。

守備範囲が広がる中で濱田さんご自身の中で変化した部分はありましたか?

アンテナを高くして視野を広く持たないといけないなと思うようになりました。被害想定の数値的な精度にこだわるだけでは自己満足で終わってしまいます。それが伝わらなければ意味がありません。これからのDX時代、防災・減災はよりパーソナライズすることが求められると考えています。地域とリスクコミュニケーションをとって、より多くの人に伝えることが大事なことだと思っています。

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